環境報告書賞 サステナビリティ報告書賞

岸川浩一郎 (日本環境管理監査人協会事務局長)

 サステナビリティ報告書賞への応募が急増している。これはとりもなおさずサステナビリティ報告書と銘打った報告書の発行が急増していることの表れでもある。私の理解は「持続性社会の実現に参加する企業の経営結果報告書」である。企業経営者が持続性社会の実現や社会的責任を深く自覚し、経営理念としても明確に掲げ、これに応えていこうとしていることは率直に歓迎したい。
しかし、報告書はやはり報告書である。環境面については、発行の歴史も長く、多くの報告書は環境影響や社会的責任に関する認識、課題、体制、対応努力、結果(環境負荷量とその変化)などを報告しているが、他の面(経済面や社会面)については、企業統治や法順守体制の強化や努力に関する記述はあっても、体制強化や努力がその意図通りに功を奏しているかどうかはあまり明確ではない。一部識者に看板に偽りありと酷評されるゆえんであろう。これまでの環境報告書発行の経験をぜひ他の側面(経済、社会)にも生かした形で、より優れた報告書を作成し、世に問うていただきたいものである。

倉阪智子 (公認会計士)

 ここ数年、環境報告書のレベルが年々上がっており、報告書に書くべき項目の漏れも少なくなっている。しかし、各項目の書き方となると、まだ優劣の差が大きい場合がある。
今年、特に気になったのは経営者の緒言である。これを載せていない報告書は今やほとんど見かけないが、そのアピール力にはかなりの開きがある。総論的な内容や、取り組み実績をただ列挙しただけでは、読者の心を打たないだろう。経営者が環境やサステイナビリティの問題をどう考え、それをふまえつつ経営の舵取りをしていこうとしているのかを、自分の言葉で明確に語っている緒言が望まれる。 
なお、社長と会長の連名の文書は、両者の考えが一致していることを示したかったのかもしれないが、個人的には、両者がそれぞれ自分の考えを述べた報告書の方にアピール力を感じた。経営者の緒言は、多くの場合、巻頭に置かれており、そこで失望すると、先を読もうという意欲が減退してしまう。経営者の心意気が伝わる緒言を載せていただきたい。

後藤敏彦 (環境監査研究会代表幹事/GRI理事)

 環境報告書に関して言えば、少なくも一次選考をへた作品はほとんど差がないというのが今年の実感であった。したがって私としては業種勘案して選び、かつ、規模の小さいところや過去の受賞暦のないところなども入賞させたいと考え推薦した。ただ、企業の環境取組については90年代とは一段と上のフェーズの取組が求められてきており、今後は募集要項を再検討する必要性もあると感じている。
サステナビリティ報告書についての別枠で募集には昨年に倍増する作品の応募があった。審査委員会で多くの審査員が「ほとんど環境報告書である」と指摘しているように多くの報告書で環境に比べ社会性の情報量が少ないということも一面の真実であった。ただ、応募数が多くなったことと、各社でCSR担当部署の設置が進んできており、今後は一段と内容を充実しないと入賞は難しいであろう。入賞企業は奨励賞という気持ちで励んでいただきたい。

谷本寛治 (一橋大学大学院商学研究科教授)

 2回目のサステナビリティ報告書賞に応募した企業数は76社であった。前回第1回の時が37社であったので倍増したことになる。特にこの1年でサステナビリティ報告書あるいはCSR報告書を作成する企業数は増加している。CSRの議論が活発化する中、先発企業のみならず、CSRに取り組もうとする企業のすそ野が広がってきている。ただCSRが企業経営の中に本格的に組み込まれて定着し、その上でサステナビリティ報告書にその成果がきちんと盛り込まれ、市場・社会とコミュニケーションが活発化していく仕組みがつくられていくにはまだもう少し時間がかかるだろう。しかし環境の時もそうであったが、日本企業の多くは、関心が高まり真剣にかかわり始めると、その取り組みへの努力、工夫、そしてスピードは早いものがある。サステナビリティ報告書に関しても、ここ2、3年で急速にレベルが上がってくるのではないかと期待して いる。

角田季美枝 (消費生活アドバイザー)

 環境報告書賞の対象報告書については、(1)社長メッセージの明瞭性、(2)環境目標の積極性、(3)事業活動全体の環境負荷の提示、(4)連結報告、(5)環境経営の進展状況、(6)利害関係者とのやりとり、(7)報告書としての独自性追求の6点で精読した。応募作品の上位群はほとんど同程度の質で、頭抜けて優れているという作品はなく、何を推すのか非常に苦しかった。正直なところ、最後は「好み」で選んでしまったのかもしれない。しかし、意外と(2)・(3)が充実していない作品も見受けられ、環境報告書の進化はまだブレークスルーの可能性もありそうだ。中小・サイトの環境報告書は「常連」の審査だったが、本社・グループの環境報告書に比べると、取り組みや報告書の「個性」が見受けられ、読んで楽しかった。
一方、サステナビリティ報告書については、(1)重要な社会的影響の明示、(2)優先順位の論理、(3)本業レベルでのCSR、(4)社会性項目の定量化の努力、(5)連結報告、(6)報告書としての独自性で読み込んだ。応募作品のほとんどはまだ環境報告書の域であり、CSR報告書への進化という意味では来年度の応募作品を楽しみにしている。

 

水口 剛 (高崎経済大学経済学部助教授)

 環境報告書に関しては、環境負荷の全体像や目標と実績の対比など、基本的なレベルが揃ってきた。それゆえプラスαの部分に目を引かれた。たとえば自社の本業を通じて、いかに持続可能な社会の実現に近づくのか、というビジョンを示した報告書に好感を覚えた。一方で、ビジョンだけでなく、成果が問われる側面もあるはずである。同業者間でシビアに比較されるという緊張感も必要ではないか。しかしそのような視点からデータを解釈することは依然難しい。これは個々の企業の責任ではなく、意味のある比較をするための方法論の開発が今後の社会的な課題だと感じた。CSR報告書では、ステイクホルダーとの対話を取り入れる動きが目立ったことも歓迎したい。ものわかりがよいステイクホルダーだけでなく、いかに立場の異なる相手の意見を聞いているかがポイントであろう。1冊や2冊読む分には気にならないが、何10冊もの報告書を横に並べて読むと、意外に同じようなキャッチコピーが使われているなあ、ということにも気がついた。

水野建樹 (未踏科学技術協会研究主幹)

 今回の審査にあたって、環境報告書の内容がさらに充実してきたことを実感しましたが、全体をわかりやすくすることや重点分野についてメリハリをつけることでは、引き続き創意工夫をお願いしたいと思います。環境報告書の内容が膨らんで企業の社会的・経済的側面も加えた報告書が多くなり、いわゆるサステナビリティ報告書と呼ばれるものに移行する傾向にあることもはっきりしてきました。しかし、真のサステナビリティ報告書とするためには、持続可能性そのものの概念をもう一度企業内でしっかりと捉え直すことも必要ではないでしょうか。今後、社会を持続可能なものに変えてゆくためにはグローバルな視点での考え方・行動が必須であり、そのための活動規範を改めて定めた上で関連するパフォーマンスを洗い出し、報告書を作成すべきではないかと思います。そうすれば、サステナビリティ報告書は持続可能な社会に向けて重要な役割を担うことができると信じています

吉田文和 (北海道大学公共政策大学院・経済学研究科教授)

 今年の環境報告書の特徴は、サステナビリティ報告書の発行数が急増し、その内容も充実してきたことです。その背景には、CSRへの社会的要請と会社とは何かを問う一連の事件が相次いだことがあると思います。そのなかで、環境問題もごみ問題、循環型社会形成からはじまり、地球温暖化問題まで多様化し、各企業の活動領域に応じて、わかりやすく、双方向性を保つ報告書が作成されてきています。また、製造業以外にも流通業や金融関係の環境報告書も優れた内容のものが多く作成されてきています。サステナビリティ報告の社会関連報告もジェンダー問題や少子高齢化に対応した内容が今後ますます求められていると思います。このように環境報告書は社会の今後を照らす鏡となっています。

熊野政晴 (東洋経済新報社取締役)

 環境報告書に社会性が加わり、さらには企業をとりまく広義の環境との共生へと、応募企業の視点が広がってきている。それだけ企業が人間の顔を持ち始めたともいえるし、共生をコスト削減のみならず、地球規模でのビジネス・チャンスとしてとらえていると見ることもできる。いずれにしても、各企業の経営意思は日本株式会社も株主資本主義をも超えて、あらゆるステイクホルダーと共同で付加価値の創造に努め、それなりの分配を心がける方向を指し示している。
ただ、地球・自然との調和がとれた企業経営を意識するあまり、若干の物足りなさが残る。ひとつは逆説的な指摘だが、株主との関わりや経済活動の成果について、アニュアル・レポート簡易版の域を出ないこと。ふたつには、従業員を純然たるステイクホルダーとして叙述する企業が少ないことである。
環境の単純な延長線上に、企業の持続可能性があるとは思えないのだが・・・。