環境報告書賞 サステナビリティ報告書賞

はじめに

 ここでは、第8回環境報告書賞(グリーンリポーティング・アウォード)の審査方法とその経過を記述する。審査方法とそのプロセスを明らかにすることで、審査の透明性が保たれ、審査結果に対する信頼が得られるものと期待している。なお、各賞の受賞理由については講評を参照されたい。

審査の流れ

  • 募集
    2004年11月7日 『週刊東洋経済』11月1日号誌上で告知。募集開始。
    2004年12月20日 募集〆切。応募総数330点。
  • 作業部会(第一次審査)
    2005年2月17日・19日 作業部会開催。作業部会メンバー52名。
  • <環境報告書賞>
    最優秀賞、優秀賞、優良賞候補28点、中小企業賞候補3点、サイトレポート賞候補4点
  • <サステナビリティ報告書賞>
    最優秀賞、優秀賞、優良賞候補14点、特別賞候補1点を選出。
  • 審査委員会(第二次審査)
    2005年4月8日 審査委員会開催。審査委員10名。
  • <環境報告書賞>
    最優秀賞1点、優秀賞1点、優良賞9点、中小企業賞2点、サイトレポート賞2点
  • <継続優秀賞>
    2点
  • <サイトレポート継続優秀賞>
    1点
  • <サステナビリティ報告書賞>
    最優秀賞1点、優秀賞2点、優良賞3点を選出。

評価規準と選考方法

1.評価規準
評価の規準は、募集の際に示した以下の通りである。

<環境報告書賞>
  • 環境に対するトップのコミットメント、明確な企業姿勢が読み取れる
  • 環境の取り組みに関するステークホルダーとのコミュニケーションツールとして優れている
  • 環境パフォーマンス情報の開示について以下の点で充実している
    ・網羅的に開示されている
    ・比較可能な形で開示されている
    ・ライフサイクルの観点と環境への重要度を反映している
  • 環境パフォーマンスに対する企業自身の評価や説明が加えられている
  • 情報の信頼性を確保する努力を行っている
<サステナビリティ報告書賞>
  • サステナビリティに対するトップのコミットメント、明確な企業姿勢が読み取れる
  • 環境については、環境報告書賞の基準を準用する
  • 社会については、〔1〕雇用・労働、〔2〕人権、〔3〕地域社会と社会貢献、〔4〕製品責任、その他について適切に開示している
  • 経済については、指標および開示方法について創意工夫を試みている
  • コミュニケーションツールとして優れており、情報の信頼性を確保する努力を行っている

2.選考の基本方針

2-1 業種特性に関する考え方
最優秀賞には最も優れた報告書を、優秀賞はそれに準じる報告書を選考する。優良賞は優秀賞に準じる報告書とし、業種・規模を勘案する。

2-2 昨年度との比較について
評価は今回応募された報告書を対象とし、昨年度以前との比較は行わない。

2-3 特別賞について
特別賞は、特別に優れた内容があった場合に選考する。ただし最優秀賞、優秀賞、優良賞との重複しての受賞はしない。なお第4回から特別賞として中小企業賞とサイトレポート賞を設置している。

2-4 継続優秀賞について
継続優秀賞制度は、継続的な受賞企業を評価するもので、これまでの受賞歴を最優秀賞3点、優秀賞2点、優良賞1点で評点し、累計点数が7点に達した企業を継続優秀賞とする。昨年度までに日本アイ・ビー・エム、キリンビール、トヨタ自動車、松下電器グループ、リコーグループの5社が継続優秀賞となった。
継続優秀賞となった企業は、翌年以降に応募した場合、最優秀賞の候補とはなるが、優秀賞・優良賞の対象とはしない。すなわち最優秀賞となるか、あるいは継続優秀賞にふさわしい水準を維持しているかどうかについて審査委員会で審査し、質が維持されていると判断されれば引き続き継続優秀賞として顕彰する。継続優秀賞の企業が応募した場合、第一次審査をへずに最終審査の対象となる。
なお環境報告書賞での継続優秀賞対象企業が、サステナビリティ報告書賞に応募した場合、通常のサステナビリティ報告書賞評価基準により審査し、最優秀賞・優秀賞・優良賞の対象となる。またサイトレポート賞および中小企業賞については、3回の受賞によって継続優秀賞とし、翌年以降は水準が維持されていると判断されれば引き続き継続優秀賞として顕彰する。

3.作業部会における選考の経緯

3-1 作業部会の役割
作業部会の役割は、応募されたすべての環境報告書を読み込み、審査委員会に提出する候補作品を選定することである。

3-2 作業部会の構成
作業部会はグリーンリポーティング・フォーラムのメンバー26人及び東洋経済新報社の26人、計52人で構成された。

3-3 選考の経緯
作業部会では、応募作品を(1)電気機器(2)化学(3)機械・ガラス・土石・鉄鋼等(4)小売業・卸売業等(5)電気・ガス・通信・陸運等(6)建設・繊維製品・紙・パルプ(7)食料品・医薬品(8)輸送機器・精密機器・その他製造(9)中小企業・サイトレポート(10)サステナビリティ(製造業)(11)サステナビリティ(非製造・建設等)の11のグループに分けて、読み込んだ。各グループの担当冊数はおおむね30冊程度、担当者は3人から6人である。各担当者は、事前に担当の応募作品を受け取り、それぞれ読み込んだ。その際、審査基準をブレークダウンした作業用規準(下記資料参照)に基づいて審査基準ごとに5段階で評点を付けた。各担当者は、単に合計点数の大小等による機械的な選考ではなく、評点を参考にして、担当グループでの上位数社をノミネートし、作業部会に臨んだ。
作業部会では、まず各グループに分かれて意見交換を行い、グループごとに上位数社の推薦候補を決定した。その際、業種や規模を勘案するという基本方針に添い、業種のばらつきや企業規模の大小に関して一定の配慮を行った。ただしすべての業種から候補を出したわけではなく、業界全体の水準が賞の候補となるレベルに至っていないと判断された場合には、ノミネートしなかった。
次に、各グループでの討議の結果を踏まえて、作業部会全体での意見交換を行い、グループ間での水準の相違、業種・規模に関する配慮などについて総合的に検討した上で、最終的に候補作を決定した。また、今年度はサステナビリティ報告賞において特別賞候補1点も選考した。

4.審査委員会における選考の経緯

4-1 審査委員会の役割
審査委員会の役割は、作業部会からの候補作及び継続優秀賞の応募作を審査し、<環境報告書賞>最優秀賞、優秀賞、優良賞、中小企業賞、サイトレポート賞、<サステナビリティ報告書賞>最優秀賞、優秀賞、優良賞を選考すること、<継続優秀賞>の応募作について水準が維持されているかどうかを審査することである。

4-2 審査委員会の構成
審査委員会は別掲の通り、各界の識者11名で構成されている。

4-3 選考の経緯
作業部会終了後、各審査委員に候補となった環境報告書を各1部ずつ送付した。審査委員は応募要項に示した審査基準を前提に、それぞれの見識に基づいて候補作を評価し、審査委員会当日までに受賞候補を推薦した。審査委員会当日はできる限り議論を通じて合意形成を図るよう努めた。その上で、最後まで意見が分かれた場合には多数決によって最終の決定を行った。最終結果及び理由等については講評を参照されたい。
(文責:水口剛/高崎経済大学助教授・グリーンリポーティング・フォーラム副代表)

[参考資料:作業部会における作業用規準]

<環境報告書賞>
(1)審査基準1.環境経営に対するトップのコミットメント、明確な企業の姿勢が読み取れる(ウェート10)

評価規準

  • トップマネジメント(マネジメントまたは環境担当役員)が環境保全活動に関する企業姿勢を明示していること
  • トップマネジメントが環境情報開示に関する企業姿勢を明示していること

評価方法

  • 5ポイント:上記2点が満たされており、開示方法も適切である
  • 4ポイント:上記2点は満たされているが、開示方法に何らかの問題がある
  • 3ポイント:上記2点のうち1点は満たされており、その開示方法は適切である
  • 2ポイント:上記2点のうち1点は満たされているが、開示方法に何らかの問題がある
  • 1ポイント:上記の評価基準のいずれも満たされていない

(2)審査基準2.環境の取り組みに関するステークホルダーとのコミュニケーションツールとして優れている(ウェート10)

評価規準

審査委員がステークホルダーとして、環境報告書を読み、コミュニケーションツールとしてすぐれているか否かを判断する。標準的な方法は規定しないが、環境報告書の構成、文字や写真の配列、文章表現、読者への配慮などが評価ポイントとなる。

評価方法

  • 5ポイント:コミュニケーションツールとして非常にすぐれている
  • 4ポイント:コミュニケーションツールとしてすぐれている
  • 3ポイント:コミュニケーションツールとして標準的である
  • 2ポイント:コミュニケーションツールとしてやや劣っている
  • 1ポイント:コミュニケーションツールとして非常に劣っている

(3)審査基準3.環境パフォーマンス情報について開示が充実している(ウェート15)

審査基準3-1 環境パフォーマンス情報について開示が充実している

評価規準

  • マネジメントシステムに関する情報が開示されている(ISO14001,内部監査の具体的な記述、環境会計情報など)
  • 企業活動に関わる環境負荷についての情報がもれなく記載されている(事故等のネガティブな情報も含む)(注:企業活動に関わる環境負荷がもれなく開示されていることが環境報告書から読み取れることが重要)

評価方法

  • 5ポイント:上記2点が満たされており、開示方法も適切である
  • 4ポイント:上記2点は満たされているが、開示方法に何らかの問題がある
  • 3ポイント:上記2点のうち1点は満たされており、その開示方法は適切である
  • 2ポイント:上記2点のうち1点は満たされているが、開示方法に何らかの問題がある
  • 1ポイント:上記の評価基準のいずれも満たされていない

審査基準3-2 パフォーマンス情報は比較可能な形で開示されている

評価規準

  • 過去からの推移が数字で把握可能な形で示されており、グラフの表示方法に統一性がある
  • 環境負荷データの測定方法に関する説明がある(測定方法・範囲について変更があった場合の説明や業界での標準的な測定方法に関する説明を含む)

評価方法

  • 5ポイント:上記2点が満たされており、開示方法も適切である
  • 4ポイント:上記2点は満たされているが、開示方法に何らかの問題がある
  • 3ポイント:上記2点のうち1点は満たされており、その開示方法は適切である
  • 2ポイント:上記2点のうち1点は満たされているが、開示方法に何らかの問題がある
  • 1ポイント:上記の評価基準のいずれも満たされていない

審査基準3-3 パフォーマンス情報はライフサイクルの観点と環境への重要度を反映している

評価規準

  • マテリアルバランス情報などの企業活動へのインプット・アウトプット情報や、製品・サービスのライフサイクルを考慮したパフォーマンス情報が開示されている
  • パフォーマンス情報の相対的な重要度が説明され、重要な環境影響が詳しく説明されている

評価方法

  • 5ポイント:上記2点が満たされており、開示方法も適切である
  • 4ポイント:上記2点は満たされているが、開示方法に何らかの問題がある
  • 3ポイント:上記2点のうち1点は満たされており、その開示方法は適切である
  • 2ポイント:上記2点のうち1点は満たされているが、開示方法に何らかの問題がある
  • 1ポイント:上記の評価基準のいずれも満たされていない

(4)審査基準4.環境パフォーマンスに対する企業自身の評価や説明が加えられている(ウェート10)

評価規準

  • 環境パフォーマンスが、どのような活動の結果として達成されたのか具体的説明がなされている
  • パフォーマンスについて、十分な自社の評価が加えられ、今後の課題が示されている(評価とは、会社として、パフォーマンスが良かったか悪かったかを示すと同時に、その理由に言及することを意味する)

評価方法

  • 5ポイント:上記2点が満たされており、開示方法も適切である
  • 4ポイント:上記2点は満たされているが、開示方法に何らかの問題がある
  • 3ポイント:上記2点のうち1点は満たされており、その開示方法は適切である
  • 2ポイント:上記2点のうち1点は満たされているが、開示方法に何らかの問題がある
  • 1ポイント:上記の評価基準のいずれも満たされていない

(5)審査基準5.情報の信頼性を確保する努力をしている(ウェート5)

評価規準

  • 報告書に記載されている情報の信頼性を確保するための十分な努力が見られる
  • 読者からの意見をもとに報告書の改善を行おうとする努力がみられる

評価方法

  • 5ポイント:上記2点が満たされており、開示方法も適切である
  • 4ポイント:上記2点は満たされているが、開示方法に何らかの問題がある
  • 3ポイント:上記2点のうち1点は満たされており、その開示方法は適切である
  • 2ポイント:上記2点のうち1点は満たされているが、開示方法に何らかの問題がある
  • 1ポイント:上記の評価基準のいずれも満たされていない

<サステナビリティ報告書賞>
CSRについてのビジョン・戦略が明確で、統治構造、マネジメントシステム、組織の基本情報が開示されている(ウェート25)

審査基準2.環境パフォーマンス情報は、網羅的で比較可能な形で開示されており、ライフサイクルの観点と環境への重要度を反映している(ウェート25)

審査基準3.社会情報に関して、下記の事項について、適切な開示がなされている(ウェートI、II、III、IVを各5、総合評価を5)

I.労働慣行

  • 労働力の内訳
  • 雇用・リストラの方針基準と状況の開示
  • 福利厚生・基礎的労働条件
  • 労働安全衛生
  • 教育研修
  • 機会均等
  • 従業員満足度

II.人権

  • 従業員の人権尊重
  • 取引先の人権尊重
  • ILOの重点4分野(差別対策、組合結成と団体交渉の自由、児童労働、強制労働)
  • 海外進出の場合の地域住民の権利と人権

III.地域社会と社会貢献

  • 地域社会との関係
  • 政治献金
  • 公正取引
  • 社会貢献

IV.製品責任、その他

  • 顧客の安全衛生と対応
  • プライバシーの尊重
  • 顧客満足度
  • その他の事項(受賞歴、フェアトレード、動物実験、武器製造など)

審査基準4.下記のステイクホルダーへの経済的価値の分配に関する適切な情報の開示(ウェート5)
顧客、従業員、株主・投資家、地域社会、政府、グローバル社会など

審査基準5.コミュニケーションツールとして優れており、信頼性確保に関して努力していること (ウェート10)

総合評価 (ウェート10)