環境報告書賞 サステナビリティ報告書賞

岸川浩一郎 (日本環境管理監査人協会事務局長)

 環境報告書を作る側も読む側も悩むものの一つに、報告書の網羅性があげられる。関心が異なる多様な読者の要求を満たすためには膨大な情報の提供が必要となるが、満足を得る編集の苦労と資源消費面から、これは厳しい注文である。ウエブサイトでの情報提供はインターネットへのアクセスが可能な人口の増大に伴って、省資源と提供コストの観点から増大の傾向にあるが、紙媒体の情報をそのまま提供しているケースが殆どで、その場合は希望の箇所へのアクセスに時間とコスト(プリント)が掛かり、立ち寄るのに躊躇してしまう。細部へのアクセス性や一瞥性(読みやすさ)に対する一層の工夫が望まれる。
多様な読者の中で投融資や調達に伴うリスク判断の資料の一部に活用したい読者は重要な利害関係者と考られるが、彼らに応えるには、限られた紙面の多くをリスク情報に割くのが妥当と考える。報告書の評価側にいるものとして、現状の報告書品質の責任を痛感する。

倉阪智子 (公認会計士)

 今年からサステイナビリティ報告書賞が設けられ2部門制となったので、各々の最優秀賞についてコメントしたい。積水化学は、環境側面の異なる複数のカンパニーをもつ企業の報告としての工夫という点で高く評価した。しかし連結子会社142社のうち、環境パフォーマンス・データの集計対象となっているのは20社強にすぎない。今後は連結ベースの報告、海外子会社を含めた報告への展開を期待したい。イトーヨーカー堂は、様々なステイクホールダーに金銭がどう分配されているかを示すCSR会計という枠組みを導入し、たんに環境報告書に社会的側面の情報を加えたものとは違う、統合性をもったサステイナビリティ報告の一つのスタイルを示したという点で高く評価した。しかしサステイナビリティ報告は世界的にもまだ揺籃期にある。欧州などにはアニュアルレポートに環境・社会の情報を盛り込む動きもあわせて、今後の動向を注意深く見ていく必要を感じている。

後藤敏彦 (環境監査研究会代表幹事/GRI理事)

 環境報告書のレベルが全般的にあがってきていることが実感できた。いままでは電機・電子業界が突出しており、優秀な作品をすてて他業種のレベルの低いものを選ぶことに抵抗があったが、多くの業種でレベルの高いものが出てきたので業種を勘案して選抜することが容易になった。
中堅企業による良い作品も出てきているが、どうしても大企業のものに比較すると見劣りがする。先行き中堅・中小企業枠を設けることが、環境報告書の推進につながるものとおもう。
サステナビリティ報告書について初めて別枠で募集したが思いのほか多くの応募があった。まだ、経済面、社会面について断片的なデータを載せているものがおおく、完成度としては低いものがほとんどというのが大方の審査員の意見だったとおもう。しかし、これは始まりにすぎないので、欠点をあげつらうより推奨することが後の発展につながるものと確信している。

谷本寛治 (一橋大学大学院商学研究科教授)

 私は今回から初めて環境報告書賞の審査に加わった。環境報告書はこれまでも目を通してきたが、順位付けをすることの困難さを実感した。とくにここ数年、報告書のレベルは著しく向上しており、データの示し方も洗練されてきている。一方、ここ1、2年増えてきたサステナビリティ報告書についてはまだまだ各社とも手探りで初歩的な段階にある。環境情報にプラスして社会貢献活動や人事制度などを紹介するにとどまっているものが少なくない。レポーティングは企業活動の最終段階にあるものであり、まずCSRに関して企業のビジョンを明確にし、これまでの活動を整理し、どのように取り組むかという基本姿勢から再考していかなければならない。また報告書は社内外のステイクホルダーとのコミュニケーションの一つの手段である。ただ読書会的、学習会的なステイクホルダーとの交流にとどまるのではなく、より専門的かつグローバルな視点からステイクホルダーとのミーティングを行い、社内にフィードバックしていくことが大切になってこよう。

角田季美枝 (消費生活アドバイザー)

 サステナビリティ報告書賞の審査対象の報告書はほとんど環境報告書であった。今後、このような名称の報告書が増えることが予測され、企業の社会的責任に関する情報開示の進展を期待したい。また、その過程で各社がいままでの自発的な環境情報開示を衰退させないよう、どのように努力されるのか、注目していきたい。さらに、サイトレベルでも社会報告を環境報告書で発信する事業所が増え始めており、サイトのサステナビリティ報告に関する日本独自の発展が期待できそうで楽しみである。
環境報告書の審査にあたっては、昨年同様、審査基準に加えて、連結報告かどうか、トップのコミットメントが明確かどうかで判断させていただいたが、環境報告書発行ベテラン企業でもまだ連結報告になっていないところ、対象範囲が連結報告とあってもマテリアルフローや環境会計等が国内単独であるものも少なくなかったのは、残念であった。また、読みやすさ追求のために基礎的なデータをウエブに移行するところも見られたが、これは情報開示の点で衰退であろうし、コミュニケーションという観点でも環境報告書という媒体に対する誤解を招くように思われる。さまざまな情報媒体がある中で「環境報告書とは何か」、おりにふれて立ち返って考えていただけるとうれしい。

永松惠一 (日本経済団体連合会常務理事)

 例年以上に各報告書において質・内容の充実が図られているため優劣が付けがたく、審査が難しかった。また、多くの報告書において「見やすさ・読みやすさ」に関する配慮が見られたが、環境報告書は、本来、多様な主体と企業とのコミュニケーションツールであることから、このようなユニバーサルデザインの追及は作成にあたっての基礎であると考える。
今回からサステナビリティ報告書賞が新設された。実際には環境報告書賞に応募された報告書についてもCSRに関する記述があるものが多く、報告書が「進化」を遂げる中で、2つの賞のクライテリアを明確に示すことが主催者側の今後の課題であろう。
最後にこれらの報告書を契機として、企業の環境経営に対する投資が進み、環境の市場化、環境と調和した社会経済システムの構築が促進されることを期待する。日本経団連としても「会員企業・団体における環境報告書等の3年倍増」を掲げており、より多くの企業が環境情報を発信していくよう積極的に取組んでいくことを期待している。

水口 剛 (高崎経済大学経済学部助教授)

 今年もレベルの高い報告書が集まった。しかし一部の報告書では、環境コミュニケーションの名の下に、従来に比べて記載量が減ったり、詳細なデータが避けられたりし、一方で顔写真がやたら目についた印象もある。データ部分をインターネットに移したという事情は分かるし、分厚ければよいとも思わない。だが企業全体のマスバランスや有害化学物質の取扱・排出・移動量などの基礎データは報告書にも記載されるべきではないか。そのような中でサイト賞となった東芝研究開発センターによる地元中学生との共同編集の試みは、出色のものであった。中学校の総合的な学習の時間を利用し、12名の有志が2週間に1度、企画会議や施設見学をしてきたという。これぞ環境コミュニケーション。何より、実際に企業の現場を訪問した中学生たちにとって、どんなに勉強になったことだろう。願わくは、日本中のすべての企業が同じように地域の子供たちとの交流に取り組まれんことを。

水野建樹 (未踏科学技術協会研究主幹)

 今年度の環境報告書表彰は、レベルの高いものがさらに増えた上、サステナビリティ報告書賞が新たに設けられたため、若干戸惑いもあり、審査は頭の痛い作業になりました。環境報告書については、経営者の気構えが報告書の内容の深さに反映しているという指摘もありました。個人的には、環境パフォーマンスの向上をわかりやすく伝える手段としての環境指標が比較可能性という視点で重要と考えています。また、LCAによる製品の総合的評価とその基礎となるデータの根拠の開示なども今後、重要と考えます。
サステナビリティ報告書は、企業による社会への影響・貢献の視点も含まれますが、これは世界的な視野での評価が欠かせないと考えます。途上国と先進国の間で生じている大きな社会的・経済的格差と資源配分・環境負荷の問題をどう考えるかが問われていると思うからです。

吉田文和 (北海道大学大学院経済学研究科教授)

 本年度からサステナビリティ賞が創設され、イトーヨーカ堂が最優秀賞に選ばれた。
この賞は環境のみでなく、社会・経済項目についての報告であり、労働慣行・人権・地域社会・製品責任に関する情報開示を促進するねらいを持っている。日本型のCSRを示したものとして評価された。環境報告書賞の最優秀賞は化学工業にして住宅メーカーである積水化学工業が選ばれた。各カンパニー別に環境負荷とその削減策がわかりやすく開示されている点が評価された。デンソーは自動車部品メーカーながらもフロン対策をはじめ、自動車リサイクルの各論を示すものとして評価された。

浅野純次 (東洋経済新報社取締役会長)

 他社の良いところを取り込めば、報告書のレベルが年々、向上していくのは当然かもしれない。そうはいっても個性、独創性は自分で創り出していくしかないはずだ。その意味で東芝研究開発センターは見事だった。毎年、高い水準を維持しあきさせないリコー福井事業所にも感服する。大企業もレベルは高まる一方だが、やはり不満なのは本当の意味で読む側、ステークホールダーの側に立ち切れていない面が残る点である。そうしたなかで、完成度の高さではセイコーエプソンが突出していた。最終選考にもれた報告書では、アサヒビール、三菱地所、セブンーイレブン・ジャパン、日本ペイントなどに個性を感じた。サステナビリティ報告書ではまだ環境報告書の殻をつけたままという感じもしたが、東日本旅客鉄道、損保ジャパン、大和証券の挑戦に今後への可能性を見た思いがする。中小企業は、気軽に取り組んでいってもらえる場をどう用意するか。最初はデータがそろわなくてもよいから、とりあえずごくプリミティブな報告書づくりが始まる風土をつくりたい。