環境報告書賞 サステナビリティ報告書賞

河口真理子  証券アナリスト/バルディーズ研究会運営委員

 環境報告書の審査を始めて6年目となる。年を重ねるに連れ判断は困難になるようだ。また今回は日本の環境報告書が曲がり角に来たことも痛感した。曲がり角とは持続可能性報告書へのシフトがすすんだこと。また環境省のガイドラインなどで一見整った報告書が増える中、異なる方向で優れた独自性を出す報告書が出現したことである。従来の判断基準では、あるべき環境報告書像にどれだけ近いか、つまりどれだけ必要な項目が求められる形で記載されているか、を判断してきた。しかし持続可能性報告書は、あるべき環境報告書の像を大きく変えつつある。また、今回最優秀賞を受賞した松下電器のように必要な項目が網羅され、かつ読みやすい完成度の高い報告書を評価する一方、アサヒビールのように、足りない項目があるもののコミュニケーションという目的にフィットしたインパクトのある報告書の魅力も捨てがたかった。そもそも環境報告書の目的はなにか、初心に帰って自問自答させられた審査であった。

岸川浩一郎  日本環境管理監査人協会事務局長

 寄せられた環境報告書の充実ぶりには目を見張るものがある。報告書を要素に分解して網羅性に欠損がないことを評価するだけでは環境報告書の具備すべき条件の適合性評価にはならないのは人物の情報評価と同様であると考える。
  活動の個々の情報をどう編集し表現しているかによって、作者の内実が見えてくる。
化学物質管理を単に数量管理と捉えている企業もあれば、リスク管理の一環としてリスク防止や削減などと一体のものとして報告している企業がある。当然後者の環境マネジメントに好感を覚える。そこには環境マネジメントの本質を突いた「安心管理」が垣間見えるからである。
  環境報告書とは銘打ちながら、GRIの提唱する社会面や経済面に言及した作品が増えたのも特徴的な今回であった。単にその様な追加的な章立てをした作品があった一方で、各側面を融合(統合)させようとした作品があった。これは倫理や企業統治も含めた事業報告(社会的責任報告)書の方向性を示すもので、その今後の発展に期待したい。

倉阪智子  公認会計士

 今年は特に審査の難しさを感じた。そろそろ環境報告書も、財務諸表に相当する環境関連データ諸表のルールが確立されるべき時期に至ったのではなかろうか。アニュアルレポートの場合、通常、後半に掲載されている財務諸表は定型的・無味乾燥で、どうせ一部の人が自分の関心部分のみ拾い読みするものと割り切られている。一方、前半の自由な記載部分は、いかにクリエイティブに自社をアピールするかの工夫に溢れている。海外のアニュアルレポートを経年的に見ていると、前半部分で前面に出す指標を前年と変えるなど日常茶飯だ。それは企業心理としては当然でもあるし、重要なデータは皆、財務諸表に載っているので、それで構わないと言える。環境報告書の場合、この財務諸表に相当する部分がまだ確立されていないので、やはり主要データをきちんと開示しないと・・・ということになるが、できあがった環境報告書を読むだけの審査では、その面での優秀さ(というか欠点の無さ)を判断するには限界がある。後半部分が制度的に担保された上で、前半部分の優秀さを審査する時代が早く来て欲しいというのが、今年の審査を終えての最大の感想である。

後藤敏彦  環境監査研究会代表幹事/GRI理事

 ここ数年、毎年おもうことですが、できばえに差がなくなり評価が本当にむつかしいというのが本音です。もちろん募集の趣旨にあった形で評価するのですが、私は経営者の緒言に書かれている理念、哲学の深さに注目しています。もう一つは緒言、方針、目的、目標の整合性です。緒言、方針で高邁な理想を掲げ、目的、目標は低レベルというものが結構見うけられます。
  今年の感想としては、「顔」がみえるものがふえてきたな、ということです。経営者の顔写真が載っているものが多いのですが、それでも「顔」が見えないというものが多かったのです。それが、少しずつ見えるようになってきたと感じました。それよりも、従業員の活動などを通して会社の「顔」がみえるというものが増えた感じです。私はこのようなものを高く評価しました。

角田季美枝  消費生活アドバイザー

 最優秀賞・優秀賞・優良賞候補作品は審査基準をふまえて(1)経営者緒言の具体性、(2)マネジメント・パフォーマンスの具体性(環境会計の評価・活用含む)、(3)パフォーマンス情報の網羅性・自己評価に加えて、マテリアルフロー把握の程度、今後のビジョンという点に着目した。業種間のレベルの差も以前より小さくなりつつあり、喜ばしい反面、審査はむずかしくなっている。自主的な開示であればこそのさまざまな独自的な試みに対して、審査員の評価が分かれ議論になったが、環境報告書というツールにまだ発展の可能性があることを感じ、非常に参考になった。
  また、中小企業候補作品については上記のうち(3)に、サイトレポート候補作品は地域住民として欲しい情報が書かれているかどうかに注目した。個人的には中小・サイトの率直な報告書に好感をもっている。環境報告書の発行をコスト面からあきらめているところも多いだろうが、地域とのコミュニケーション促進やグリーン調達推進のツールとしてぜひ作成・活用してほしいと思う。

永松惠一  社団法人日本経済団体連合会常務理事

 教育改革あるいは新しい企業経営論で話題になるのが、富士山型か八ヶ岳型かという論点である。小柴さん、田中さんの偉業を知るにつけ、富士山型が立派だと思うし、今年の阪神タイガースのようにホームランをそれ程あてにしなくても、ヒットを連ねる八ヶ岳スタイルが競争に勝つ王道だとする見方も捨て難い。
  環境報告書の歴史は浅く、まだまだ成長過程にあるが、報告書の数が急増し、記述すべきは記述するというスタイルが定着しつつある今日、秀逸となるべき条件は何かについて、早くも考えざるを得ない段階に入りつつあるように思う。
  富士山型と八ヶ岳型論は別に対立する概念ではないが、日常生活を含め、どこに+αを見出すかである。

水口 剛  高崎経済大学経済学部助教授

 環境報告書のつくりはますます洗練されてきた。数年前なら確実に最優秀賞と思えるものも少なくない。短期間でここまでレベルアップした各社の努力には敬意を表したい。一方、環境報告書をサスティナビリティ報告書や社会・環境報告書へと拡張していこうとする流れも顕著になってきた。今回の審査ではその部分は明示的には考慮されなかったが、基本的には歓迎すべき流れだと考える。ただし「サスティナビリティ」の意味をどう捉えるかは重要だ。従来の環境報告書に、何か別のパートを付け加えればサスティナビリティ報告書になると考えてよいのか。GRIのガイドラインや欧州の社会報告の伝統などを輸入することが大事なのか。環境問題への取り組みが「持続可能な社会」を目指すものであるならば、サスティナビリティという語に異なる意味を見出すこともできるのではないか。なぜ環境報告書の先にサスティナビリティ報告書があると考えるのか、今後は各社の哲学が問われるのではないだろうか。

水野建樹  社団法人未踏科学技術協会研究主幹

 環境報告書賞への応募総数が年々急増している中で、ガイドラインに沿って作成されている報告書が増えているためか、あるいは報告書を読む人々の意見を取り入れたものが増えているためか、あるいはその両方の効果によるためか、環境報告書は質的に著しく向上している、との感想を持ちました。そのため、優劣の順位をつける作業は一段と難しいものとなりました。このような状況の中で上位に選ばれたものは、企業の環境方針が明確で、環境パフォーマンスのデータの正確さを損なわずにわかりやすく表現するという努力がより強く伝わってきたものであったように思えます。データの正確さとわかりやすさを上手に伝えるために環境指標をどう利用するかは重要な視点と考えています。
  なお、環境側面に止まらず、経済的側面や社会的側面についても企業の考え方やパフォーマンスを含む報告書が増えてきています。環境以外の側面について、何に焦点をあてどのように記述するかはこれからの課題ですが、環境報告書の範囲が拡がっているので、それに応じて表彰の考え方も検討する必要がありそうです。

吉田文和  北海道大学大学院経済学研究科教授

 環境報告書は毎年、量質ともに拡充しつつある。とくに今年は循環型社会形成をめざす循環諸法(容器包装リサイクル法、家電リサイクル法、自動車リサイクル法、食品リサイクル法、建設リサイクル法)への取組という観点から各レポートを読むと、取組の実例が分り易くかつ数値を示しながら、詳しく説明している優れたものが多かった。また、ネガティブ情報の開示という面から土壌汚染対策法への対応や、汚染サイトの公表という面でも積極的なレポートが多かった。分り易くかつ正確で、面白くてためになる報告書への一層の発展充実を期待したい。

浅野純次  東洋経済新報社取締役会長

 最終選考に残った候補作は過去最多にのぼった。見方を変えれば評価は微妙に異ならざるをえないだけに、僅差で競り合う候補作に序列をつけるのは至難というほかない。今年も全体として質的充実が著しい。他社の良いところをどんどん取り入れていく形で向上している面もあろうが、ときにそれは優等生タイプ、ステレオタイプの報告書へ落ち込む可能性にもつながる点、気になるケースも散見された。評価にあたって私個人としては、切り口、アイデア、表現方法などに独創性が高いかどうかを重視した。それはまた誰のための環境報告書かという問題にもつながっていく。受賞各社のうち、松下、トヨタは常連で堂々たる内容だが、アサヒビールが急激に良くなって優秀作となった(去年の西友もそうだったが)。そのほか宝酒造、日産自動車、キヤノンは優秀作と紙一重だし、ダイハツ、ファミリーマート、イオン、凸版印刷、大日本印刷は入選作品に劣らぬ水準と思う。