環境報告書賞 サステナビリティ報告書賞

浅岡美恵  気候ネットワーク代表/弁護士

 読者に向けた問題意識や工夫が感じられる報告書が多く、優劣の順位をつけることは難しいと痛感した。このように、年々、環境報告書を競って充実させる動きは、環境への取組なくして企業の存続がありえない時代の到来を実感させる。地方自治体の環境白書の類にもこのような機会が必要だと思う。
企業活動の環境側面は広範であり、発信方法も含めた総合的評価も有益だが、個々の消費者や一般のNGOが、それぞれの関心領域や問題意識に基づいて、企業への期待を提起する機会として報告書を読むこともできそうである。そんな観点から、特に、地球環境に関する記載に注目して読ませていただいた。全体として関心の高さが窺われたのはうれしい。また、取組の成果が現れている企業も少なくないが、効率指標に重点が置かれる傾向にある。CO2などの排出削減のために、工場・事業所毎の排出量の把握・公表は環境報告書の役割の第1ともいえ、社会的にも期待されている。来年度に期待したい。

河口真理子 証券アナリスト/バルディーズ研究会運営委員

 環境報告書のレベル向上は毎年ながら目を見張るものがある。電機、自動車、小売など入賞の常連企業の一段とレベルアップした報告書にも敬服するが、業種と規模の多様化―中堅のダイハツやタバイエスペック、素材の太平洋セメントやコスモ石油など―がすすんでいることも印象深かった。上位3点は、レベルはほぼ同等だが、それぞれ個性的な報告書で最後まで議論がわかれた。私の印象では西友はあくまでも現場環境対策を網羅的に誠実に開示するボトムアップの報告書、リコーは経営戦略としての環境対応と情報開示との位置付けが明かなトップダウン、キリンビールはGRIガイドラインにあくまで忠実な教科書的報告書。業態の違いか社風か、こうした個性ある高レベルの報告書が環境報告書の一段の多様化とレベルアップの牽引役になると期待される。

岸川浩一郎 日本環境管理監査人協会事務局長

 応募作品の質の向上で授賞作品の選択に悩まされた今回の審査であった。優劣を付けがたい作品群から更に一歩抜け出し栄冠を手にするには、報告書への工夫が求められることを実感した審査でもあった。多くの作品に影響を与えてきた作品が過去の栄光に甘んずることなく継続的な努力によって、継続優秀賞の座を確保/維持されたことにも大変尊敬の念を覚るものである。
作品を拝見すると、高度成長期時代の産業界の努力を彷彿させて、トップランナーに近づいた作品がある一方で、これで良しとする(目標にたどり着いた)一服感が感じられる作品もあった。受賞作品に似せることを急ぐ前に、「なぜ優秀作品なのか」の自問が必要である。
産業界でのリスクコミュニケーションへの取り組みは、ある意味で緒に就いたばかりである。既存のモデル(過去の優秀作品)を越え、社会の要請に的確に応えた、一層優れた報告書の出現を期待したい。
環境報告書の課題に応えてそのブレークスルーを図るには、ベンチマークだけからでは困難である。智恵は他の分野にも隠されている。
昨今話題の経営情報開示のあり方、監査制度、財務会計制度の動きや議論は大いに参考となる。経営の最重要課題の一つに環境保全を位置づけているのであるならば、財務会計に期待されている情報に相当する情報を環境会計にも求めたいし、それでこそ環境「会計」といえる。

倉阪智子 公認会計士

 本表彰も5年目となり、最終選考に残った作品は力作揃いで、満場一致で最優秀という作品が選べない状況になってきた。各作品の良い所が増えてきたため、欠点も評価に入れざるを得なくなったのが一因だと思う。欠点は、それをどれだけ致命的と見るかが個人の価値観に大きく依存する。特に「この情報が欠けている」という欠点は、判断が難しい。アニュアルレポートであれば、何を欠いてはいけないかの判断基準があるが、環境報告書にはそれがない。初期の表彰制度は、良い所に光をあて、他社がそれを手本にするよう誘導することで、報告書の発展を促す役割を果たしてきたが、これと同じ発想では立ちゆかない段階に入ってきたのではないだろうか。将来的には、書くべき情報に全く漏れがない報告書のみが第一次選考に残り、それを超えた創意工夫が最終審査で評価されるのが理想だろう。日本の環境報告書の発展を感じると同時に、限界も感じたのが今年の審査だった。

國部克彦 神戸大学大学院経営学研究科教授

 環境報告書の質が年々アップしていることは明らかだが、優秀な報告書には2つのタイプがあることに気が付いた。ひとつは、環境省や経済産業省がガイドラインなどを出すかなり以前から環境報告書を作成してきた先発企業群である。もうひとつは、環境報告書がある程度普及してから出すようになってきた後発企業群だ。
先発企業群に個性的な報告書が多いのは当然かもしれないが、後発企業群の方はかなり標準化されつつあるといった印象を受ける。表彰対象としては、個性的な報告書が多く選ばれる傾向があるが、後者の標準的な報告書のレベルアップは目覚ましい。私は、このような標準的な環境報告書をもっと積極的に評価すべきだと思っている。

環境報告書賞も5回目を数えた。環境報告書の質と量の充実は当初の予想をはるか に超えている。表彰のスキームもそろそろ見直すべき時期かもしれない。

後藤敏彦 環境監査研究会代表幹事

 トップクラスの環境報告書にはほとんど差がなく苦労したというのは昨年と同様であった。ただ、表彰された作品は業種、規模等も勘案されているので、表彰されなかった作品の中にもすばらしいものが数多くあった、というのが私の感想である。このことは逆に業種間ではまだまだレベルに差があるということを意味している。
昨年と違う感想としては、それぞれの企業が独自の取り組みをしだしていると感じたことである。昨年はどれをとっても同じで金太郎飴のような感触をもったが、今年は少しちがった。各社がそれぞれ単にガイドライン等をなぞっているのではなく、環境報告書をだす目的等を真剣に考え出してきているものと推察している。
環境報告書はまだまだ進化の過程にあり、こうした各社の独自の取り組みから新しい方向が見えてくるものと思う。

角田季美枝 グリーンリポーティング・フォーラム共同コーディネーター/消費生活アドバイザー

 今回は(1)環境負荷の全体像の開示、(2)本業にかかわる主要な環境パフォーマンスの自己評価(とくに前年度比較)に注目して精読した。加えてグローバルに操業している企業については(3)グローバルな開示の状況にも注目した。環境報告書を発行して数年経つような企業の環境報告書であっても、環境負荷の全体像を示している環境報告書は少なく、主要な環境パフォーマンスを自己評価しているものはもっと少なく残念だ。
最近、「環境経営」というスタンスを環境報告書で強調されるところが増えているが、環境報告書の基本は環境パフォーマンス報告である。マネジメントの充実が、結果、環境パフォーマンスの改善にどのようにつながっているのか。今後はこの点が見える開示を望みたい。
なお、サイトレポートには本社のものより情報開示に誠実さを感じた。まだ発行している業種は限られているが、今後の発行増加を期待したい。

永松恵一 経済団体連合会常務理事

 環境問題が話題にならない日はないほど、環境への関心は高まっている。政府においては、先般、地球温暖化対策大網を発表し、近く関連法案を国会に提出する予定である。経団連では、かねてよりCO2および産業廃棄物最終処分量の削減を内容とする環境自主行動計画や3Rの推進等を業界団体あるいは個別企業に要請しているが、今般、各社の環境報告書を読んで、各社が真剣に取組んでいることを痛感した。報告書は、それぞれ様々な工夫がなされているが、分析の継続性のほかに、例えば目下、最重要課題であるCO2削減への取組みをクローズアップするといったことも一考の余地があろう。分かり易さ、グラフの活用、注書きの工夫なども重要な点であり、横文字、カタカナの多さは気になる。環境に関心はあるが素人という人に、編集の過程で読んでもらってはどうか。いずれにせよ、環境報告書においても、環境と成長の両立ということが、底辺を流れる主要テーマである。

水野建樹 産業技術総合研究所 東北センター所長

 今回の審査を通して、環境報告書の内容が質的に高くなっており、環境報告書に関する企業の方々の意識が急速に高まっていることを改めて強く感じました。多くの報告書からは、環境に関連する情報をできるだけ多く載せたいという意気込みも伝わってきました。しかし、報告書の紙面が限られていますから、環境パフォーマンスに関する情報の開示は本来業務に強く関わるものについて、表現方法をもっと工夫され、要点をわかりやすくすることも必要ではないかと思いました。また、環境改善に向けた自己PR的な情報は、企業の姿勢だけでなく、できる限り定量的な結果を記載することが重要と思います。わかりやすいかどうかは読者にもよりますから、主に報告書を読んでもらいたい読者層の意見に耳を傾けるとよいのではないでしょうか。適当な環境指標を選んで、読者にとっていろいろな比較がたやすくできるよう工夫されることも期待しています。

吉田文和 北海道大学大学院経済学研究科教授

 環境報告書は、各企業の環境パフォマンスそのものではなく、各企業の環境アカウンタビリティ(説明責任)を表すものと考える。

この点で、「わかりやすさ」、「目標と評価」、「ネガティブの情報開示」が評価のポイントとなる。最後の評価点で、今年の報告書は土壌・地下水汚染の情報開示が進んでいるが、その程度には差が見られる。

浅野純次 東洋経済新報社取締役会長

 年々、環境報告書のレベルは確実に上昇している。他社の優れた面を取り入れつつ改善が重ねられているとすればそれはそれで結構なことだが、表面的なスタイルを真似るだけ で良しとすることのないように望みたい。そのためには、何のために、誰のために環境報告書を作るのかを常に問いかけながら取り組むこと、自社の置かれたポジションをしっかりと把握することが必要で、そのなかから個性的な環境報告書が生まれてくれば理想的だ。そのうえで読者の興味を呼び起こすような構成と明解で読みやすい記述をめざしてほしい。ステークホールダーの中でも顧客をもっと意識した作り方をすると生き生きした仕上がりになると思う。そうした意味からいうとリコー、エプソン、松下電器、西友、INAXは良くできている。選に漏れたなかでは東京ガス、TOTO、凸版印刷、ミサワホーム、積水化学、ダイキンにそれぞれ持ち味があり、次回に期待を抱かせるものがあった。