環境報告書賞 サステナビリティ報告書賞

第5回 環境報告書賞:審査過程について

はじめに

 以下に、第5回環境報告書賞(グリーンリポーティング・アウォード)の審査方法とその経過を記述する。審査方法とそのプロセスを明らかにすることで、審査の透明性が保たれ、審査結果に対する信頼が得られるものと期待している。なお、各賞の受賞理由については講評を参照されたい。

審査の流れ

  • 募集
    2001年11月5日 『週刊東洋経済』11月10日号誌上で告知。募集開始。
    2001年12月31日 募集〆切。応募総数242点。
  • 作業部会(第一次審査)
    2002年2月16日 作業部会開催。作業部会メンバー31名。最優秀賞、優秀賞、優良賞候33点、中小企業賞候補2点、サイトレポート賞3点、その他特別賞候補1点を選出。
  • 審査委員会(第二次審査)
    2002年3月18日 審査委員会開催。審査委員11名。最優秀賞1点、優秀賞2点、優良賞12点、中小企業賞1点、サイトレポート賞2点を選出
  • 審査委員会開催
    2002年3月18日 審査委員会開催。審査委員11名。最優秀賞1点、優秀賞2点、優良賞14点、中小企業賞1点、サイトレポート賞2点、継続優秀賞3点を選出。

評価規準と選考方法

1.評価規準
  基本的な評価の規準は、募集の際に示した以下の5点である。これは客観的な判定の根拠となるような基準ではなく、選定の視点基本であり、評価の「拠り所」となる指針である。

なお、後述するように作業部会では以下の規準をブレークダウンした評価規準を設定した。

  • 環境情報開示および環境保全活動に関する企業姿勢が明示されていること
  • 環境報告書としての構成が体系的で、かつ各項目間の関係および重要度が明確であると
  • 環境パフォーマンス情報を、本業との関わりにおいて包括的かつ明瞭な形で開示していること
  • 環境パフォーマンスに対する企業自身の評価や説明が加えられていること
  • 情報の信頼性およびコミュニケーション確保のために努力していること

2.選考の基本方針

2-1 業種特性に関する考え方
  上記の評価基準に沿って、最優秀賞には最も優れた報告書を、優秀賞はそれに準じる報告書を表彰することとした。一方、優良賞は優秀賞に次ぐ内容をもつ報告書とし、業種・規模を勘案するように努めた。

2-2 昨年度との比較について
  従来同様、評価は今回応募された報告書を対象とし、昨年度以前との比較は行わないこととした。

2-3 特別賞について
  特別賞も従来同様、特別に優秀と思われる内容があった場合に、表彰する旨を基本方針とした。また、最優秀賞、優秀賞、優良賞を受賞した報告書はある程度優れたレベルに達しているとみなせるため、特別賞とのダブル受賞はしないという点も基本方針とした。

2-4 継続優秀賞について
  前年度、継続優秀賞を授賞した日本アイ・ビー・エムの作品については、応募時点で一次審査を経ずに最終審査に挙げることになっている。最終審査では、最優秀賞に値するかどうか、優良賞以上の情報開示のレベルであるかとうかが検討された。
  また日本アイ・ビー・エム以外の作品については、最優秀賞・優秀賞・優良賞決定後、最優秀賞3点、優秀賞2点、優良賞1点と得点化され、過去の得点とあわせて7点以上のものを自動的に継続優秀賞とした。

3.選考の手法

3-1 評価規準の適用方法
  評価規準を応募作品の環境報告書にあてはめて選考していく方法については、応募総数の増加に伴い、昨年同様、作業部会で点数化して検討した。
  点数化については、応募の際の審査規準をブレークダウンし5段階で点数化した(詳細は後述)。5段階のレベルについては作業部会メンバーで合意して決定した。ただし、5段階で評価するといっても、何をどの段階にするかなどの判断は作業部会メンバー各自の判断に委ねることとした。
  なお、点数化については過去の議論で弊害が指摘されていることもふまえて、評価できる点、改善すべき点をそれぞれ3点リストアップしたほか、総評を書き留めるよう心がけた。また、作業部会の審査の際は、各自の得点結果をふまえてそれぞれが上位作品を推薦作品としてリストアップし、それぞれの報告書の評価できる点、できなかった点を共有しながら、審査委員会にあげる候補作品を選定した。
  最終審査に関しては、応募要綱に示された審査基準をもとに各審査委員の見識をふまえて検討がなされ、議論をして決定した。作業部会の評価規準については、最終審査の事前も当日も示されていない。

3-2 合意形成の方法
  作業部会や審査委員会で意見が分かれた場合は、まず議論を通じて各委員の合意形成を図るように努めた。これによって異なる知見を共有でき、総合的な議論ができるようになる。その後、多数決で採決し、最終決定とした。

4.作業部会での審査過程

4-1 作業部会の役割
  作業部会の役割は、応募された環境報告書をすべて読み込み、審査委員会に提出する候補作品を選定することである。応募総数が昨年より50社強増えたが、第一次審査の段階で30をめどに選定することとした。
  特別賞については、数の制限はなく、候補として検討するに値する報告書を挙げることとした。

4-2 作業部会の構成
  作業部会はグリーンリポーティング・フォーラムのメンバー16人及び東洋経済新報社の記者ほか15人の計31人で構成された。グリーンリポーティング・フォーラムのメンバーは、大学の研究者、公認会計士、証券アナリスト、環境NGOの関係者などを含み、いずれもいままでに環境報告書に関する専門的な知見を有している。ここに企業経営に関するオピニオン・リーダーである東洋経済新報社の視点が加わることで、現実的な企業評価の視点が加わり、評価視点の多様性、専門性が確保された。

(注)グリーンリポーティング・フォーラムで今回、作業部会に参加したメンバーは以下である(50音順、敬称略)。安藤直彦、海野みづえ、角谷祐公、河口真理子、岸川浩一郎、倉阪智子、國部克彦、後藤敏彦、角田季美枝、冨増和彦、梨岡英理子、野崎麻子、楢木茂實、緑川芳樹、森 哲郎、水口 剛

4-3 事前読み込み作業
  昨年度は業種区分は3区分であったが、今回は作業軽減から5区分に分けて読み込んだ。昨年は1人あたりの分担が70前後であったこと、また応募締め切りを昨年度より早めたことから、読み込む時間や深さは昨年より向上している。
  なお、業種区分は作業部会メンバー1人が読み込む環境報告書の数は50をめどに考えた。また、業務多忙等の理由から業種区分全体の半数のみを読むということも認めることとした。業種区分及び応募報告書数、担当者数(カッコ内延べ人数)は以下のとおりである。

業種区分 応募報告書数 読み込み担当者数
素材グループ 43 4人(6人)
電機グループ 50 5.25人(8人)
自動車グループ 50 5人(5人)
非製造業グループ 47 5人(8人)
中小・サイトグループ 47 4人(4人)

(注)各グループに含まれる業種は以下のとおりである。業種区分については『会社四季報』の区分に準じている。

  • 素材グループ:繊維・紙・化学・医薬・石油
  • 電機グループ:電機・精密・その他製品
  • 自動車グループ:自動車・機械・ゴム・土石・金属・食品
  • 非製造グループ:卸売・小売・電力・ガス・陸運・海運・通信・保険・金融・証券・不動産・サービス
  • 中小・サイトグループ:建設、中小・サイト

4-4 評価規準
  作業部会では、最優秀賞、優秀賞、優良賞の候補選定にあたって、作業部会の議論のベースぞろえ、受賞企業以外への応募各社へのフィードバック、審査委員会への作業部会としての選別方針などの明示などの観点から、応募要領の審査基準をブレークダウンした。そして、メンバー各自の知見から各々の環境報告書を5段階評価することとした。

(1)審査基準1.環境情報開示および環境保全活動に関する企業姿勢が明示されていること

評価規準

  • CEOが環境保全活動および環境情報開示に関する企業姿勢を明示していること
  • CEOが環境情報開示に関する企業姿勢を明示していること

評価方法

  • 5ポイント:上記が2点満たされており、自社のコミットメントが明確である
  • 4ポイント:上記が2点満たされているが、CEOの姿勢が抽象的である
  • 3ポイント:上記が1点満たされている
  • 2ポイント:CEOが明言していないが、環境方針などで明らかにされている
  • 1ポイント:いずれも開示していない

(2)審査基準2.環境報告書としての構成が体系的で、かつ各項目間の関係および重要度が明確であること

評価規準

  • 構成が体系的である
  • 各項目の関係がはっきりしている
  • マネジメント情報を含み、開示されている情報のプライオリティがわかる

評価方法

  • 5ポイント:上記が3点とも満たされている
  • 4ポイント:上記が3点とも満たされているが、十分ではない
  • 3ポイント:上記が2点満たされている
  • 2ポイント:上記が1点満たされている
  • 1ポイント:上記が満たされていない

(3-A)環境マネジメント・パフォーマンス情報を、本業とのかかわりにおいて包括的かつ明瞭な形で開示していること

評価規準

  • 責任と権限が明確な形で示されている
  • 環境マネジメントシステム(ISO14001含む)についての記述がある
  • 内部監査の具体的な記述がある

評価方法

  • 5ポイント:上記が3点とも満たされている
  • 4ポイント:上記が3点とも満たされているが、十分ではない
  • 3ポイント:上記が2点満たされている
  • 2ポイント:上記が1点満たされている
  • 1ポイント:上記が満たされていない

(3-B)環境操業パフォーマンス情報を、本業との関わりにおいて包括的かつ明瞭な形で明示していること

評価規準

  • パフォーマンス情報の包括性がある:過去からの推移および目標とすべき基準が示されている(経年的な比較ができる)
  • 本業との関係で重要なパフォーマンス情報が項目として網羅されている
  • 明瞭である:単位が統一されている(例:絶対量、原単位などがばらばらになっていない)。グラフ、表などの表示方法に統一性がある

評価方法

  • 5ポイント:上記が3点とも満たされている
  • 4ポイント:上記が3点とも満たされているが、十分ではない
  • 3ポイント:上記が2点満たされている
  • 2ポイント:上記が1点満たされている
  • 1ポイント:上記が満たされていない

(4)審査基準4.環境パフォーマンスに対する企業自身の評価や説明が加えられていること

評価規準

  • パフォーマンスについて、説明が施されている
  • パフォーマンスについて、自社の評価が加えられている

評価方法

  • 5ポイント:読み手が理解できる具体的な記述がある。自社の環境パフォーマンスに対してどのように評価し、今後のアクションにどのように結びつけるかについて記述している。(結果の言及だけでは不適)
  • 4ポイント:実績の説明やそれをどのように評価して今後のアクションにどのように結びつけているかの説明があるが、具体的ではない
  • 3ポイント:事実の説明に対してなんらかの説明がある
  • 2ポイント:事実の説明に対してなんらかの説明があるが、十分ではない
  • 1ポイント:説明がない(努力します、めざします、良くなった、悪くなったは説明していないのと同じ)

(5)審査基準5.情報の信頼性およびコミュニケーション確保のために努力していること

評価規準

  • 報告書に記載されている情報の信頼性を上げるための努力が見られる
  • 読者とのコミュニケーションをとる努力が見られる

評価方法

  • 5ポイント:信頼性の確保と読者との相互コミュニケーションの工夫について努力していることがわかる
  • 4ポイント:双方とも努力しているが、十分ではない
  • 3ポイント:どちらかについて努力していることがわかる
  • 2ポイント:どちらかについて努力していることがわかるが、十分ではない
  • 1ポイント:双方とも努力していない

4-5 採点表の作成
  前掲の評価規準に従った採点表を作成し、検討結果を記入した。
  ただし、評価する際には、環境報告書の内容が形式的でなく具体性があることを評価する、評価できる点・改善すべき点をそれぞれ3点付加することとした。さらに特記事項や総評を書くことも推奨した。そうすることによって、採点結果にとらわれない議論ができるように備えるとともに、特別賞候補の選定にも参考にできるからである。

4-6 作業部会当日の議論
  作業部会当日は、最初に業種区分ごとのグループに分かれて、それぞれ優良賞以上と考える環境報告書を5〜8社程度、推薦することとした。その後、すべてのメンバーが一堂に会し、それぞれの推薦候補を推薦理由とともに挙げた。また、落とすに忍びないが落としてしまった作品がある場合はそれも理由とともに紹介することとした。その結果、候補に挙がった環境報告書は39点あった。
  議論はまず最優秀賞・優秀賞・優良賞候補作品の選出から行った。議論の際に、作業部会メンバーの圧倒的多数が推薦したもの、敗者復活の観点で選ばれたもの、業種勘案という視点で選ばれたものの3種類がある点、優良賞の数は最終審査委員会で決めるという点を踏まえて議論した。その結果、素材グループから5点、電機グループから8点、自動車グループから8点、非製造グループから8点、中小・サイトグループ(建設のみ)から3点の合計32点が選ばれた。その結果、昨年、継続優秀賞を授賞した日本アイ・ビー・エムは応募があった時点で自動的に最優秀賞候補であるので、最終審査委員会には日本アイ・ビー・エムを含めて33点が推薦作品となった。
  サイトレポート賞、中小企業賞、その他特別賞の候補作品計7点は、上記の最優秀賞・優秀賞・優良賞候補の検討の後に別個に検討した。その結果、その他特別賞候補作品2点のうち1点が「特別賞に値するレベルではない」と外され、それ以外の6作品(サイトレポート賞候補作品3点、中小企業賞候補作品2点、その他特別賞候補作品1点)を審査委員会に届けることとなった。

5.審査委員会での審査過程

5-1 審査委員会の役割
  審査委員会の役割は、第一に作業部会から提出された候補を審査し、最優秀賞1点、優秀賞2点、及び優良賞を10点程度選定すること、第二に特別賞を選出すること、第三に昨年継続優秀賞作品だった応募作品が候補作品となる場合、それが最優秀賞に値するかどうかを判断することである。

5-2 審査委員会の構成
  審査委員会は別掲のように各界の識者12名で構成されている。

5-3 資料の事前配布
  作業部会終了後、各審査委員には候補となった環境報告書を各1部ずつ送付し、審査委員会当日までに目を通していただくようお願いした。また、事前にベスト10と思われる候補作品と特別賞に値するか否かについての結論を事務局にFAXいただくように依頼した。これは議論の時間を短縮するためである。なお、参考資料として作業部会の評価規準を添付したが、解釈は各審査委員の方々の判断に委ねられた。

5-4 審査委員会での評価規準
  審査委員会では各界の視点を反映し、作業部会とは独立して評価するという趣旨から、作業部会で採用した評価規準にはとらわれずに、応募要領で示した5つの審査基準だけを念頭において審査することとした。

5-5 審査委員会当日の議論
  審査委員会当日の議論については、講評を参照されたい。

6.継続優秀賞の審査過程

 昨年から情報開示の質の高い環境報告書を継続的に発刊し、複数回受賞した企業を対象とする継続優秀賞(エスタブリッシュト・リポーター)制度を導入している。
  過去の受賞歴から最優秀賞3点、優秀賞2点、優良賞1点と得点化し、7点以上獲得した企業の作品を継続優秀賞とすることとになっている。今回までの受賞歴をこの得点にあてはめた結果、キリンビール、リコーグループの2点が継続優秀賞となった。また、昨年継続優秀賞を授賞した日本アイ・ビー・エムの環境報告書については最優秀賞にはあたらないが優良賞以上のレベルであることが、審査委員会で合意された。その結果、今回の継続優秀賞の該当作品は3作品と決定された。

文責:角田季美枝/グリーンリポーティング・フォーラム共同コーディネーター