はじめに
以下に、第4回環境報告書賞(グリーンリポーティング・アウォード)の審査方法と その経過を記述する。審査方法とそのプロセスを明らかにすることで、審査の透明性が 保たれ、審査結果に対する信頼が得られるものと期待している。なお、各賞の受賞理由 については講評を参照されたい。
審査の流れ
- 募集
2000年11月13日 『週刊東洋経済』11月18日号誌上で告知。募集開始。
2001年 1月20日 募集〆切。応募総数192点。
- 作業部会(第一次審査)
2001年 2月24日 作業部会(第一次審査)開催。作業部会メンバー20名。最優秀賞、優秀賞、優良賞候補33点、中小企業賞候補2点、サイトレポート賞候補4点を選出。
- 審査委員会(第二次審査)
2001年 3年28日 審査委員会(第二次審査)開催。審査委員11名。最優秀賞1点、優秀賞2点、優良賞12点、中小企業賞1点、サイトレポート賞2点を選出。
2001年 3年28日 今回の最優秀賞、優秀賞、優良賞受賞企業の過去の受賞歴を勘案して、グリーンリポーティング・フォーラムと東洋経済新報社の環境報告書賞運営会議にて継続優秀賞1点を選出。
評価規準と選考方法
1.評価規準
基本的な評価の規準は、募集の際に示した以下の5点である。これは客観的な判定の根拠となるような基準ではなく、選定の視点基本であり、評価の「拠り所」となる指針である。
なお、後述するように作業部会では以下の規準をブレークダウンした評価規準を設定した。
- 環境情報開示および環境保全活動に関する企業姿勢が明示されていること
- 環境報告書としての構成が体系的で、かつ各項目間の関係および重要度が明確であると
- 環境パフォーマンス情報を、本業との関わりにおいて包括的かつ明瞭な形で開示していること
- 環境パフォーマンスに対する企業自身の評価や説明が加えられていること
- 情報の信頼性およびコミュニケーション確保のために努力していること
2.選考の基本方針
2-1 業種特性に関する考え方
上記の評価基準に沿って、最優秀賞には最も優れた報告書を、優秀賞はそれに準じる報告書を表彰することとした。一方、優良賞は優秀賞に次ぐ内容をもつ報告書とし、業種・規模を勘案するように努めた。
2-2 昨年度との比較について
従来同様、評価は今回応募された報告書を対象とし、昨年度以前との比較は行わないこととした。
2-3 特別賞について
特別賞も従来同様、特別に優秀と思われる内容があった場合に、表彰する旨を基本方針とした。また、最優秀賞、優秀賞、優良賞を受賞した報告書はある程度優れたレベルに達しているとみなせるため、特別賞とのダブル受賞はしないという点も基本方針とした。
今回から、中小企業賞とサイトレポート賞を設置することとした。
3.選考の手法
3-1 評価規準の適用方法
評価規準を応募作品の環境報告書にあてはめて選考していく方法については、今回初めて作業部会で点数化することを試みた。これは今回の応募総数が昨年の約2倍と急増したことによる作業負担の軽減化が第一の目的であった。
点数化については、応募の際の審査規準をブレークダウンし5段階で点数化した(詳細は後述)。5段階のレベルについては作業部会メンバーで合意して決定した。ただし、5段階で評価するといっても、各項目の重みづけや何をどの段階にするかという判断は作業部会メンバー各自の判断に委ねることとした。
なお、点数化については過去の議論で弊害が指摘されていることもふまえて、点数化した結果にとらわれないような評価プロセスをとるよう、作業部会メンバー各自が心がけることとした。たとえば、特に評価できる点や印象などがある場合は、特記事項として文章化するよう努めた。また、作業部会の審査の際は、各自が点数化した結果を公表することは行わなかった。点数表に基づいてそれぞれが上位作品を推薦作品としてリストアップし、それぞれの報告書の評価できる点、できなかった点を共有しながら、審査委員会にあげる候補作品を選定した。
3-2 合意形成の方法
作業部会や審査委員会で意見が分かれた場合は、まず議論を通じて各委員の合意形成を図るように努めた。これによって異なる知見を共有でき、総合的な議論ができるようになる。その後、多数決で採決し、最終決定とした。
4.作業部会での審査過程
4-1 作業部会の役割
作業部会の役割は、応募された環境報告書をすべて読み込み、審査委員会に提出する候補作品を選定することである。応募総数が昨年の倍増であったが、第一次審査の段階で30をめどに選定することとした。
特別賞については、数の制限はなく、候補として検討するに値する報告書を挙げることとした。
4-2 作業部会の構成
作業部会はグリーンリポーティング・フォーラムのメンバー15名及び東洋経済新報社の記者・編集者5名の計20名で構成された。グリーンリポーティング・フォーラムのメンバーは、大学の研究者、公認会計士、証券アナリスト、環境NGOの関係者などを含み、いずれもいままでに環境報告書に関する専門的な知見を有している。ここに東洋経済新報社の記者・編集者の視点が加わることで、現実的な企業評価の視点が加わり、評価視点の多様性が確保された。
4-3 事前読み込み作業
前年度に引き続き今回も業種区分を3区分と大括りに分けて読み込んだ。ただし、業種間の水準の相違を把握するため、2名は応募された環境報告書をすべて読むこととした。業種区分及び応募報告書数、担当者数は以下のとおりである。 業種区分 応募報告書数 読み込み担当者数
業種区分 |
応募報告書数 |
読み込み担当者数 |
組立 |
80 |
8名 |
組立以外の製造業 |
49 |
10名 |
非製造業 |
63 |
9名 |
全業種 |
192 |
2名 |
4-4 評価規準
作業部会では、最優秀賞、優秀賞、優良賞の候補選定にあたって、作業部会の議論のベースぞろえ、受賞企業以外への応募各社へのフィードバック、審査委員会への作業部会としての選別方針などの明示などの観点から、応募要領の審査基準をブレークダウンした。そして、メンバー各自の知見から各々の環境報告書を5段階評価することとした。
(1)審査基準1.環境情報開示および環境保全活動に関する企業姿勢が明示されていること
評価規準
- CEOが環境保全活動および環境情報開示に関する企業姿勢を明示していること
評価方法
- 5ポイント:環境保全活動および環境情報開示双方の企業姿勢を開示している
- 3ポイント:どちらかひとつの企業姿勢を開示している
- 2ポイント:CEOが明言していないが、環境方針などで明らかにされている
- 1ポイント:開示していない
(2)審査基準2.環境報告書としての構成が体系的で、かつ各項目間の関係および重要度が明確であること
評価規準
- 構成が体系的である(例:企業としてのライフサイクルが示されている、環境報告書のシナリオがきちんとしている)
- 各項目の関係がはっきりしている(例:方針―目的―実績)
- マネジメント情報を含み、開示されている情報のプライオリティ(重要度)がわかる
評価方法
- 5ポイント:上記が3点とも満たされている
- 3ポイント:上記が2点、満たされている
- 2ポイント:上記が1点、満たされている
- 1ポイント:満たされていない
(ポイント)この項目のキーワードは、「体系的」「関係」「重要度」
(3)審査基準3.環境パフォーマンス情報を、本業との関わりにおいて包括的かつ明瞭な形で開示していること
評価規準
3-A マネジメント・パフォーマンス情報
- 責任と権限が明確な形で、組織体制が示されている。
- 環境マネジメントシステム(ISO14001含む)についての記述がある。
- 内部監査の具体的な記述がある。
(ポイント/注:このポイントは3-Aだけでなく、3全体に関わること)
- この(3)のキーワードは「網羅性」
- 本業で重要なものをマネジメントしているかどうかがわかることがポイント。
3-B 操業パフォーマンス情報
- パフォーマンス情報の包括性がある:過去からの推移および目標とすべき基準が示されている(経年的な比較ができる)
- 本業との関係で重要な環境パフォーマンス情報が項目として網羅されている
- 明瞭である:単位が統一されている(例:絶対量、原単位などがバラバラになっていない)。グラフ、表などの表示方法に統一性がある
(ポイント)
- 重要な環境情報とは重要な環境側面、重要な部門、主要な活動領域、主要な製品など。
評価方法
- 5ポイント:上記が3点とも満たされている
- 3ポイント:上記が2点、満たされている
- 2ポイント:上記が1点、満たされている
- 1ポイント:満たされていない
(4)審査基準4.環境パフォーマンスに対する企業自身の評価や説明が加えられていること
評価規準/評価
- 5ポイント:読み手が理解できる具体的な説明がある。自社の環境パフォーマンスに対してどのように評価し、今後のアクションにどのように結びつけるかについて記述している。(結果の言及だけでは不適)
- 3ポイント:事実に対して何らかの説明がある
- 1ポイント:説明がない(「努力します」「めざします」「よくなった」「悪くなった」は説明していないのと同じ)
(参考)
- 環境会計情報も企業によって評価されていることを評価するという議論をした。
- パフォーマンスが改善した場合でも、理由についての説明含め、社としての解析がないと、評価とはいえない。
(5)審査基準5.情報の信頼性およびコミュニケーション確保のために努力していること
評価規準/評価
- 5ポイント:信頼性の確保と読者との相互コミュニケーションの工夫について努力していることがわかる
- 3ポイント:どちらかについて努力していることがわかる
- 1ポイント:双方とも努力していない
(ポイント)
- 情報の信頼性とコミュニケーションの工夫は同一に論じられないので、分けて評価する(従来の「かなり」「ほどほど」という規準は曖昧すぎることもある)。
- 第三者意見書については「添付していることは信頼性確保について努力していること」「添付していない企業でも努力している企業はある。第三者意見書があるからといって単純にそれを信頼性の確保とみるのはどうか」など意見が出た。第三者意見書添付をもって信頼性を確保しているとはGRFとしては言わない。作業部会メンバー各自で判断することとした。
- ネガティブ情報の開示を信頼性確保とするかどうか。ネガティブ情報といういいかたは後ろ向き。「ネガティブでもありうる情報」。表彰制度としてネガティブ情報という評価項目は適切ではないとの、前回の審査委員の指摘も紹介された。コンプライアンス、事故情報などの開示は、この項目ではなくて(3)の網羅性で考える。
- 読者との相互コミュニケーションについては、読みやすさも含む。
4-5 評価シートの作成
前掲の評価規準に従って各自が評価シートを作成し、検討結果を記入した。
ただし、評価する際には、環境報告書の内容が形式的でなく具体性があることを評価する、特記事項(特に優れた情報開示)もあれば付加することとした。こうすることによって、採点結果にとらわれない議論ができるように備えるとともに、特別賞候補の選定にも参考にできるからである。
4-6 作業部会当日の議論
作業部会当日は、最初に素材・素材以外の製造・非製造の3区分を担当したメンバーが、優良賞以上と考える環境報告書をそれぞれ上位5点ずつ、推薦した。その後、全作品を読んだメンバーが上位15点をめどに推薦候補を挙げた。その結果、2名以上の人が推薦した企業が33点あり、まずこれらを検討した結果、最終的に33点すべてを推薦することで合意した。
次に、1名のみが推薦した環境報告書および各分野上位5位には入らなかったが、どうしても推薦したい環境報告書はないかを討議した。具体的にいくつかの候補作品があげられたが最終的に、ノミネートに値するという合意は得られなかった。
さらに環境報告書賞では「業種や規模を勘案する」となっているので、優良賞候補はその点からも検討した。33点の中に含まれていなかった業種(建設業、金融業、通信産業など)について議論したが、業界全体の水準が賞の候補となるレベルになっていないと合意した。
そして特別賞候補の、サイトレポート賞と中小企業賞は今年度から創設したもので、上記の最優秀賞・優秀賞・優良賞候補とは別個に検討した。
その結果、最優秀賞・優秀賞・優良賞対象作品33点、サイトレポート賞対象作品4点、中小企業賞対象作品2点を審査委員会に届けることとなった。なお1点は最優秀賞・優秀賞・優良賞候補とサイトレポート賞の両方の候補となっていた。
5.審査委員会での審査過程
5-1 審査委員会の役割
審査委員会の役割は、第一に作業部会から提出された候補を審査し、最優秀賞1点、 優秀賞2点、及び優良賞を10点前後選定すること、第二に特別賞を選出することである。
5-2 審査委員会の構成
審査委員会は別掲のように各界の識者11名で構成されている。
5-3 資料の事前配布
作業部会終了後、各審査委員には候補となった環境報告書を各1部ずつ送付し、審査委員会当日までに目を通していただくようお願いした。また、事前にベスト10と思われる候補作品と特別賞に値するか否かについての結論を事務局にFAXいただくように依頼した。これは議論の時間を短縮するためである。なお、参考資料として作業部会の評価規準を添付したが、解釈は各審査委員の方々の判断に委ねられた。
5-4 審査委員会での評価規準
審査委員会では各界の視点を反映し、作業部会とは独立して評価するという趣旨から、作業部会で採用した評価規準にはとらわれずに、応募要領で示した5つの審査基準だけを念頭において審査することとした。
5-5 審査委員会当日の議論
審査委員会当日の議論については、講評を参照されたい。
6.継続優秀賞の審査過程
今回から質の高い報告書を継続的に発刊し、複数回受賞した企業を対象とする継続優秀賞(エスタブリッシュト・リポーター)制度の導入を予定することとした。
過去の受賞歴から最優秀賞3点、優秀賞2点、優良賞1点と得点化し、7点以上獲得した企業の作品を継続優秀賞とすることとした。今回までの受賞歴をこの得点にあてはめた結果、1点が継続優秀賞となった。
なお、継続優秀賞受賞企業の作品について来年度以降応募があった場合、最優秀賞候補にはなるが、優秀賞、優良賞の受賞候補にはならないこととし、継続優秀賞たるレベルが維持されていることを主催者の運営会議が判断すれば、自動的に継続優秀賞となる。
以上 |