環境報告書賞 サステナビリティ報告書賞

第3回 環境報告書賞:審査過程について

はじめに

 以下に、第3回環境報告書賞(グリーンリポーティング・アウォード)の審査方法とその経過を記述する。審査方法とそのプロセスを明らかにすることで、審査の透明性が保たれ、審査結果に対する信頼が得られるものと期待している。なお、各賞の受賞理由については講評を参照されたい。

審査の流れ

  • 募集
    1999年11月15日 『週刊東洋経済』11月20日号誌上・インターネットホームページで告知。募集開始。
    2000年1月31日 募集〆切。応募総数100点。
  • 作業部会(第一次審査)
    2000年2月12日 作業部会(第一次審査)開催。作業部会メンバー15名。最優秀賞、優秀賞、優良賞候補28点、特別賞候補4点を選出。
  • 審査委員会(第二次審査)
    2000年3月17日 審査委員会(第二次審査)開催。審査委員11名。最優秀賞1点、優秀賞2点、優良賞10点を選出。特別賞該当なし。

評価規準と選考方法

1.評価規準
  基本的な評価の規準は、募集の際に示した以下の5点である。これは客観的な判定の根拠となるような基準ではなく、選定の視点基本であり、評価の「拠り所」となる指針である。

なお、後述するように作業部会では以下の規準をブレークダウンした評価規準を設定した。

  • 環境情報開示および環境保全活動に関する企業姿勢が明示されていること
  • 環境報告書としての構成が体系的で、かつ各項目間の関係および重要度が明確であること
  • 環境パフォーマンス情報を、本業との関わりにおいて包括的かつ明瞭な形で開示していること
  • 環境パフォーマンスに対する企業自身の評価や説明が加えられていること
  • 情報の信頼性およびコミュニケーション確保のために努力していること

2.選考の基本方針

2-1 業種特性に関する考え方
 上記の評価基準に沿って、最優秀賞には最も優れた報告書を、優秀賞はそれに準じる報告書を表彰することとした。一方、優良賞は優秀賞に次ぐ内容をもつ報告書とし、業種・規模を勘案するように努めた。

2-2 昨年度との比較について
  従来同様、評価は今回応募された報告書を対象とし、昨年度以前との比較は行わないこととした。

2-3 特別賞について
  特別賞も従来同様、特別に優秀と思われる内容があった場合に、表彰する旨を基本方針とした。また、最優秀賞、優秀賞、優良賞を受賞した報告書はある程度優れたレベルに達しているとみなせるため、特別賞とのダブル受賞はしないという点も基本方針とした。

3.選考の手法

3-1 評価規準の適用方法
 評価規準を応募作品の環境報告書にあてはめて選考していく方法については、今回初めて作業部会で点数化することを試みた。これは今回の応募総数が昨年の1.5倍とかなり増えたことによる作業負担の軽減化が第一の目的であった。
  点数化については、応募の際の審査規準をブレークダウンし3段階で点数化した(詳細は後述)。3段階のレベルについては作業部会メンバーで合意して決定した。3段階で評価するといっても、人によっては各段階の中間点(たとえば2.5)を付けることも可とした。
  ただし、点数化については過去の議論で弊害が指摘されていることもふまえて、点数化した結果にとらわれないような評価プロセスをするよう、作業部会メンバー各自が心がけることとした。たとえば、特に評価できる点や印象などがある場合は、特記事項として文章化するよう努めた。また、作業部会の審査の際は、各自が点数化した結果を公表することは行わなかった。点数表に基づいてそれぞれが上位作品を推薦作品としてリストアップし、それぞれの報告書の評価できる点、できなかった点を共有しながら、審査委員会にあげる候補作品を選定した。

3-2 合意形成の方法
  作業部会や審査委員会で意見が分かれた場合は、まず議論を通じて各委員の合意形成を図るように努めた。これによって異なる知見を共有でき、総合的な議論ができるようになる。その後、多数決で採決し、最終決定とした。

4.作業部会での審査過程

4-1 作業部会の役割
  作業部会の役割は、応募された環境報告書をすべて読み込み、審査委員会に提出する候補作品を選定することである。応募開始当初では最優秀賞、優秀賞、優良賞は併せて20点をめどに候補を選定することとしていたが、応募総数が昨年より増加したため、第一次審査の段階で30をめどに選定することとした。
  特別賞については、数の制限はなく、候補として検討するに値する報告書を挙げることとした。

4-2 作業部会の構成
  作業部会はグリーンリポーティング・フォーラムのメンバー12人及び東洋経済新報社の記者3人の計15人で構成された。グリーンリポーティング・フォーラムのメンバーは大学の研究者、公認会計士、証券アナリスト、環境NGOの関係者などを含み、いずれもいままでに環境報告書に関する専門的な知見を有している。ここに東洋経済新報社の記者が加わることで、現実的な企業評価の視点が加わり、評価視点の多様性が確保された。

4-3 事前読み込み作業
  前年度は業種別に7区分に分けて読み込んでいたが、今回は業種区分を3区分と大括りに分けて読み込んだ。2年の経験から業種ごとの情報開示姿勢のレベルの違いが小さく、客観的比較もむずかしいなど、多業種に分けて読み込む意義より限界のほうが大きいことがわかったからである。ただし、業種間の水準の相違を把握するため、4名は応募された環境報告書をすべて読むこととした。業種区分及び応募報告書数、担当者数は以下のとおりである。

業種区分 応募報告書数 読み込み担当者数
素材 33 4人
素材以外の製造業 40 4人
非製造業 27 4人
全業種 100 4人

4-4 評価規準
  作業部会では、最優秀賞、優秀賞、優良賞の候補選定にあたって、作業部会の議論のベースぞろえ、受賞企業以外への応募各社へのフィードバック、審査委員会への作業部会としての選別方針などの明示などの観点から、応募要領の審査基準をブレークダウンした。そして、メンバー各自の知見から各々の環境報告書を3段階評価することとした。ただし2.5、1.5という評価もできることととした。

(1)審査基準1.環境情報開示および環境保全活動に関する企業姿勢が明示されていること

評価規準

  • CEOもしくはそれに相当する機関が環境保全活動および環境情報開示に関する企業姿勢を明示していること

評価方法

  • 3ポイント:環境保全活動および環境情報開示双方の企業姿勢を開示している
  • 2ポイント:どちらかひとつの企業姿勢を開示している
  • 1ポイント:CEOやそれに相当する機関が明言していないが、環境方針などで明らかにされている/開示していない

(2)審査基準2.環境報告書としての構成が体系的で、かつ各項目間の関係および重要度が明確であること

評価規準

  • 構成が体系的である(例:企業としてのライフサイクルが示されている、環境報告書のシナリオがきちんとしている)
  • 各項目の関係がはっきりしている(例:方針―目的―実績)
  • (マネジメントシステム情報を含む)重要な情報が記載され、そのプライオリティがわかる

評価方法

  • 3ポイント:上記が3点とも満たされている
  • 2ポイント:上記が2点、満たされている
  • 1ポイント:上記が1点、満たされている/満たされていない

(3)審査基準3.環境パフォーマンス情報を、本業との関わりにおいて包括的かつ明瞭な形で開示していること

評価規準

  • 本業との関係がはっきりしている。
  • パフォーマンス情報の包括性がある:過去からの推移が示されている(経年的な比較ができる)。項目として網羅されている(例:水質データはあるが大気データはないということがない)。
  • 明瞭である:単位が統一されている(例:絶対量、原単位などがバラバラになっていない)。グラフ、表などの表示方法に統一性がある。

評価方法

  • 3ポイント:上記が3点とも満たされている
  • 2ポイント:上記が2点、満たされている
  • 1ポイント:上記が1点、満たされている/満たされていない

(4)審査基準4.環境パフォーマンスに対する企業自身の評価や説明が加えられていること

評価規準/評価

  • 3ポイント:読み手が理解できる具体的な説明がある(技術や手法など具体的に説明している。見通しもある。今後のアクションにつながる評価もある)
  • 2ポイント:事実に対して何らかの説明がある
  • 1ポイント:説明がない(「努力します」「めざします」「よくなった」「悪くなった」は説明していないのと同じ)

(5)審査基準5.情報の信頼性およびコミュニケーション確保のために努力していること

評価規準/評価

  • 3ポイント:信頼性の確保、コミュニケーションの工夫についてかなり努力している
  • 2ポイント:ほどほどに努力している
  • 1ポイント:それ以下

4-5 評価シートの作成
  前掲の評価規準に従って各自が評価シートを作成し、検討結果を記入した。
 ただし、評価する際には、環境報告書の内容が形式的でなく具体性があることを評価する、特記事項(特に優れた情報開示)もあれば付加することとした。こうすることによって、採点結果にとらわれない議論ができるように備えるとともに、特別賞候補の選定にも参考にできるからである。

4-6 作業部会当日の議論
  作業部会当日は、最初に素材・素材以外の製造・非製造の3区分を担当したメンバーが、優良賞以上と考える環境報告書をそれぞれ8点、推薦した。その後、全作品を読んだメンバーが20点をめどに推薦候補を挙げた。
 その時点で過半数以上の作業部会メンバーが推薦する環境報告書12点が、候補作品群に決定した。
 次に、過半数ではないもののそれに次いで多くのメンバーから推薦された環境報告書をひとつひとつ議論して、5点を候補作品として追加した。
 そしてこの後は、応募の文言にある「業種・規模を勘案して」を満たしているかどうかという視点から、上記5点からもれた環境報告書の中から7点を追加することとした。
 最後に、作業部会メンバーの間では評価が分かれたが審査委員会に候補として挙げておいたほうがよい内容のものものがないかという視点で、すでに候補作品に選ばれた以外の環境報告書で候補を挙げてそれぞれ検討し、その結果、4点を候補作品群に入れることとした。
 以上、計28点が優良賞以上の候補作品となった経緯である。
 また、特別賞については、メンバーそれぞれが候補作品を挙げたところ、9点が候補検討作品に挙がった。それをひとつずつ検討した結果、「ネガティブ情報の開示として優れている」という理由でひとまとめにして4点を特別賞として推薦することとした。ただ、あるものについては「ネガティブ情報」として一括してよいのかという疑問も呈された。なお、このうち2点は優良賞以上の候補作品と重複していた。
 このようにして計30点の候補作品が審査委員に届けられることとなった。

4-7 結果

  • 最優秀賞、優秀賞、優良賞候補28点
  • 特別賞候補4点

5.審査委員会での審査過程

5-1 審査委員会の役割
  審査委員会の役割は、第一に作業部会から提出された候補を審査し、最優秀賞1点、優秀賞2点、及び優良賞を10点前後選定すること、第二に特別賞を選出することである。

5-2 審査委員会の構成
  審査委員会は別掲のように各界の識者11名で構成されている。

5-3 資料の事前配布
  作業部会終了後、各審査委員には候補となった環境報告書を各1部ずつ送付し、審査委員会当日までに目を通していただくようお願いした。また、事前にベスト5と思われる候補作品と特別賞に値するか否かについての結論を事務局にFAXいただくように依頼した。これは議論の時間を短縮するためである。なお、参考資料として作業部会の評価規準を添付した。

5-4 審査委員会での評価規準
  審査委員会では各界の視点を反映し、作業部会とは独立して評価するという趣旨から、作業部会で採用した評価規準にはとらわれずに、応募要領で示した5つの審査基準だけを念頭において審査することとした。

5-5 審査委員会当日の議論
  審査委員会当日の議論については、講評を参照されたい。

以上