環境報告書賞 サステナビリティ報告書賞

はじめに

 環境報告書賞も3年目を迎え、今回は初めて応募企業が100社となった。環境報告書の作成企業も、最終消費者を相手にした業種から素材、化学、商社などに広がりを見せ、子会社や事業所単位のサイトレポートを発行する企業も増加している。

 報告書の質も大変高くなり、開示されている項目数の比較では単純に優劣を決めることが難しくなり、質的な評価が求められるようになっている。今年度は、応募企業100社の環境報告書を、共催団体の作業部会による第一次審査で28点に絞り込み、最終審査委員会で、最優秀賞1点、優秀賞2点、優良賞10点を選定した。なお、特別賞受賞作品はなかった。

講評

 今回の環境報告書賞では、別掲のように、従来の評価基準をより詳細に規定し、環境保全活動に対する企業姿勢を重視すると同時に、報告書に掲載される情報の網羅性と体系性などに焦点をあてて審査を行った。

 最優秀賞はリコーグループとソニーグループが最後まで激しく争った。リコーの報告書は開示の体系性、明瞭性およびエコバランスや環境会計を含む環境マネジメントシステムとの関連性を明確にしている点で評価が高く、一方、ソニーの報告書は、海外情報や製品情報など開示に優れており、定性的および定量的な情報が詳しく書き込まれているところが評価された。

 今回は微差ながらリコーを支持する意見が多かったため、リコーが最優秀賞となり、ソニーが優秀賞に回ったが、2つの環境報告書に決定的な差異があるわけではなく、むしろ特徴の相違が票数の差に現れたといえよう。

  もうひとつの優秀賞には、業種や規模の相違も考慮して宝酒造の環境報告書が選ばれた。審査の過程では、パフォーマンス情報の包括性や、緑字決算を含む独創性のある環境会計への取り組みが評価された。

  優良賞としては応募企業の増加を反映させて10点を選定した。紙幅の関係上、業種ごとに報告書をまとめて講評するが、審査過程では業種の相違を意識して審査したものの、業種ごとに受賞企業数を絞って議論したわけではない。

  電気機器関係では、NECグループ、キヤノン、日本IBM、富士通および松下電器グループの5社の報告書が選ばれた。NECグループの報告書は開示の明瞭性、マネジメントシステムに関する詳細な記述が評価された。キヤノンは開示データの充実度と読みやすい報告書であることが高い評価を得た。日本IBMと富士通および松下電器グループの報告書はこれが3年もしくは2年連続の受賞となるが、それぞれ定評のある環境報告書のまとめ方が今年も評価された。

  流通業界からはイトーヨーカ堂と西友およびみやぎ生協の報告書が選ばれた。イトーヨーカ堂は情報開示のスタイル読者にとって読みやすい点が、西友は環境活動の自己評価や座談会などの新しい試みがそれぞれ評価された。みやぎ生協は、生協特有の詳細な情報開示のみならず、ダイジェスト版で読みやすさを工夫している点が支持された。

  自動車業界からはトヨタ自動車が選ばれた。これは開示情報の詳細さの点で評価され、同業他社のベンチマークとなっている点を推す声もあった。食品業界からはキリンビールの報告書が選ばれた。キリンも3年連続の受賞になるが、質・量の点ですぐれており、第三者意見への取り組みも評価する意見もあった。

 今回は惜しくも受賞企業を出すことことができなかったが、建設業やエネルギー業の報告書のレベルも決して上記の業種と見劣りするわけではなく、僅差で入賞を逃した報告書もあった。また、特筆すべきは化学工業の環境報告書である。従来は、レスポンシブル・ケア対応を強調する報告書が多かったが、今年は開示データが充実している報告書が多く見受けられ、入賞まであと一歩という報告書もいくつか現れている。

 サイトレポートの充実ぶりも指摘されるべきであろう。今回は、原則としてサイトレポートも一会社の報告書として評価したため入賞には至らなかったが、それでも随所に工夫を凝らした独創性のある報告書が応募されてきたことは、今後の環境報告書のさらなる発展を示唆しているようである。

 なお今後の課題のひとつとして、食の安全性に関する情報開示や、本来の事業以外でたとえば医薬業などを営んでいる場合にそれらの情報が十分に開示されていないという問題点も指摘された。

國部克彦
グリーンリポーティング・フォーラム共同コーディネーター
神戸大学大学院経営学研究科助教授