環境報告書賞 サステナビリティ報告書賞

第2回 環境報告書賞:審査過程について

はじめに

 以下に、第2回環境報告書賞(グリーン・リポーティング・アウォード)の審査の方法とその経過を記す。各賞の受賞理由については講評を参照されたい。審査の方法とプロセスを明らかにすることで、審査の透明性が保たれ、審査結果に対する信頼が得られるものと期待している。

審査の流れ

 全体的な審査の流れは下記に示す通りである。昨年同様、作業部会(第一次審査)と審査委員会(第二次審査)の二段階方式で選考した。なお、作業部会は、本表彰制度の共催者であるグリーンリポーティング・フォーラム(GRF)と東洋経済新報社のメンバーから構成される。審査委員会委員の氏名は公表の通りである。

  • 募集
    1998年11月16日 『週刊東洋経済』11月21日号誌上で告知。募集開始。
    1999年 1月31日 募集締め切り。応募総数73点。
  • 作業部会(第一次審査)
    1999年 2月13日 作業部会開催。作業部会メンバー17名。最優秀賞、優秀賞、優良賞候補20点、特別賞候補7点を選出。
  • 審査委員会(第二次審査)
    1999年 3月24日 審査委員会開催。審査委員11名。最優秀賞1点、優秀賞2点、優良賞7点、特別賞3点を選出。

評価規準と選考方法

1.評価規準
  基本的な評価の「規準」は募集の際に示した以下の3点である。これは、客観的な判定の根拠となるような「基準」ではなく、評価の拠り所になる指針であり、評価の際の基本的な視点である。

なお後述するように、作業部会では以下の規準をブレークダウンした細目(後述)を設定した。

  • 企業としての環境に関する基本方針が明示されていること。
  • 本業活動での環境負荷削減への取り組みがわかること。
  • コミュニケーション手段として優れていること。

2.選考の基本方針

2-1 業種特性に対する考え方
  最優秀賞は上記の評価規準に沿って最も優れた報告書を、優秀賞、優良賞はそれに次ぐ報告書を選ぶこととした。すべての報告書を同一の規準で評価した場合のベストテンを選ぶことを基本方針とし、業種ごとに1社というような配慮はしないこととした。ただし業種によって重要な環境側面が異なる場合には環境報告書も異なりうるので、業種の違いも勘案することとした。したがって同業他社との比較もある程度評価に反映されている。

2-2 昨年度との比較について
  評価は今回応募された報告書を対象とし、昨年度以前との比較は行わないこととした。したがって、昨年に比べて大きく改善したとか、昨年からの進歩が小さいというようなことは評価の対象とはしていない。

2-3 特別賞について
  特別賞に関しては、本当に特別に優秀と思われる記述があった場合に表彰することを基本方針とした。

3.選考の手法

3-1 評価規準の適用方法
 評価規準を実際の報告書にあてはめて選考していく方法は、昨年同様、作業部会メンバーおよび審査委員それぞれの定性的な判断によるものとし、審査結果を点数化して表すことはしないこととした。評価対象となる項目ごとに点数を付し、ウエイト付けして合計するというような方法も考えられるが、環境報告書の様式が必ずしも確立しておらず、企業間、業種間での差異も大きい今の段階では、合理的な点数化やウエイト付けは困難と思われる。点数化しないことは必ずしも非合理的な評価であることを意味せず、評価規準を踏まえた上での専門的な見地からの判断は、点数化しえない定性的な要素を評価する手法として、有効な方法であると考える。

3-2 合意形成の方法
  作業部会および審査委員会で意見が分かれた場合には、単なる多数決によることはせず、議論を通じて各委員の合意形成を図るようにした。専門家同士の意見交換を通じて、各自が別々に読んでいた時には見落としていた事実や、異なる見方などの情報を共有することができ、より合理的な判断に近づくことができる。こうして意見が十分に収斂するのを待って結論を出すこととした。価値判断を含む評価であるから、全員の意見が完全に一致する可能性は低いが、一定程度意見が収斂していれば、信頼に足る評価がなされていると考えられるであろう。

3-3 審査委員会および作業部会の中立性について
  審査の中立性を保つために、審査委員会および作業部会の冒頭において、相互に十分な注意を払い、厳正に審査することを確認した。

4.作業部会での審査過程

4-1 作業部会の役割
  作業部会の役割は応募された全ての環境報告書を読み込み、審査委員会に提出する候補を選定することである。最優秀賞、優秀賞、優良賞は合わせて10点程度を予定しているので、作業部会で20点を目途に候補を選定した。特別賞については数の制限はなく、特別賞候補として検討に値する報告書をあげることとした。

4-2 作業部会の構成
  作業部会はグリーンリポーティング・フォーラムのメンバー15人、および東洋経済新報社の記者2人の合計17人で構成された。グリーンリポーティング・フォーラムのメンバーは、大学の研究者、公認会計士、証券アナリスト、環境NGO関係者などを含み、いずれも今まで環境報告書に関して専門性を有している。これに東洋経済新報社の記者の目が加わることで、評価者の専門性とともに多様性が確保され、少数の意見では結論が左右されないことから全体としての中立性も保つことができた。

4-3 事前読み込み作業
  最初に、業種別に担当を決めて、応募された環境報告書の読み込みを行った。ただし業種間の水準の相違を把握するため、3名は応募されたすべての環境報告書を読むこととした。業種区分、応募報告書数、担当者数は以下の通りである。

業種区分 応募報告書数 読み込み担当者数
エネルギー 10社 2人
化学 10社 3人
食品 6社 2人
組み立て・製造 24社 2人
建設 8社 2人
流通 10社 4人
その他 5社 1人
全業種 73社 3人

4-4 作業部会での評価規準
  作業部会では最優秀賞、優秀賞、優良賞の候補選定にあたって、先に述べた評価規準をブレークダウンし、以下に示す15項目の細目を設定した。

(1)審査基準1.企業としての環境に関する基本方針が明示されていること。

  • 環境方針、環境目的、環境目標
  • 体制、マネジメント・システム
  • その他企業としての取り組み

(2)審査基準2.本業活動での環境負荷削減への取り組みがわかること。

  • 事業活動全体での環境負荷の把握
  • 事業活動のプロセス毎の環境負荷削減努力
  • 事業活動のサイト・地域毎の環境負荷削減努力
  • 製品・サービスの環境負荷削減努力
  • サプライヤー・取引先への要請・支援
  • その他

(3)審査基準3.コミュニケーション手段として優れていること。

  • 会社の基礎情報
  • 会社の環境に関わる財務情報
  • ネガティブ情報
  • 双方向性
  • 理解容易性
  • その他
さらに各項目を評価する際の質的規準として、適合性、信頼性、比較可能性という3つ の視点を設定した。
  • 適合性: 報告書の読者の情報ニーズに合致していることを意味する。
  • 信頼性: 情報が信頼に足ることを意味する。ただしこれはすべての項目で問題になるわけではなく、特に信頼性が高いまたは低い項目があるときに評価に含めることになる。
  • 比較可能性: 企業間比較および期間比較が可能なことを意味する。これもすべての項目で問題になるわけではなく、特に比較可能性が問題になる場合にのみ評価に含めることになる。
なお特別賞に関しては特に評価規準を設けていない。

4-5 評価シートへの作成
  上記した評価規準のブレークダウンにより、縦15項目、横3項目のマトリックス状の評価シートを作成した。各作業部会メンバーは、この評価シートを念頭において個々の報告書を読み、一件ごとに評価シートに記入することとした。ただし評価シートの各項目に点数を記入して合計するというようなことはせず、特に優れている項目や特に劣っている項目だけをピックアップして、要点を記述的に説明することとした。 最後に抽出された項目を総合的に評価して、各自、報告書の全体的評価を下す。評価シートは作業部会当日に提出することとした。

4-6 作業部会当日の議論
  作業部会当日は、最初に各メンバーが担当した業種ごとに優良賞以上と考える報告書を推薦した。この時点で約40の報告書が候補に上った。次に他のメンバーからの支持が少ない報告書で、推薦したメンバーが取り下げることに同意した報告書は候補からはずし、約30に絞った。逆に多くのメンバーの支持を集めた報告書で、優良賞以上の候補に上げることに全員が同意したものは、候補として確定した。これにより15点が候補として確定した。

 残りの報告書、すなわち一部のメンバーが比較的強く推薦するが、他のメンバーの同意を得られない報告書について、それぞれ評価できる点と評価できない点を議論した。そしていったん議論を中断し、約30分間、ボーダーラインにある報告書を互いに回覧して再度読み込んだ。その後再度議論し、すでに確定している優良賞以上の候補15点の水準を踏まえた上で追加的に推薦できる報告書として5点が大多数の支持を集めたところで、意見は概ね集約されたと考え、候補を決定した。

 次に特別賞の議論に入った。特別賞については各メンバーが推薦した報告書を、特別賞候補として審査委員会で審査することが妥当かどうかという観点から検討した。 特別賞候補となる理由などについて議論の上、大多数の意見の一致をみた段階で候補として決定した。

4-7 結果

最終的に以下の通り選定した。
  • 最優秀賞、優秀賞、優良賞候補20点
  • 特別賞候補7点

5.審査委員会での審査過程

5-1 審査委員会の役割
  審査委員会の役割は、第一に作業部会から提出された候補を審査し、最優秀賞1点、優秀賞2点および優良賞7点前後を選定すること、第二に特別賞を選出することである。

5-2 審査委員会の構成
  審査委員会は別掲のように、各界の識者11名で構成されている。

5-3 資料の事前配布
  作業部会終了後、各審査委員には候補となった環境報告書を各一式ずつ送付し、審査委員会当日までに、目を通して頂くようお願いした。

5-4 審査委員会での評価規準
  審査委員会では社会の各層・各界の視点を反映し、作業部会とは異なる観点から評価するという趣旨から、作業部会で採用した15の項目にはとらわれず、先に述べた3つの評価規準だけを念頭において審査することとした。

5-5 審査委員会当日の議論
  審査委員会当日は、最初に審査の基本方針について議論して方針を確認し、作業部会での議論の経緯の報告を受けた上で、審査に入った。

 最優秀賞、優良賞、優秀賞の審査では、各審査委員があらかじめ記入してきた評価シートを元に10点の候補を推薦し、各委員がその理由を述べた。この段階で作業部会で推薦された20点のすべての名前があがったという意味で、評価は分かれたが、多くの審査委員の支持が集まったという意味では上位の報告書はかなり明確になった。しかし各報告書とも一長一短があり、審査委員の評価のウエイトも異なるため、特に最優秀賞、優秀賞に関しては非常に議論になった。予定時間をかなり延長し、優秀賞を3点以上に増やすことなども検討されたが、最終的には大多数の意見の一致をみて、今回発表の通り決定した。

 特別賞の審査では、まず作業部会から推薦された候補の内、優良賞以上に選ばれた報告書が対象から除外された。一方優良賞の選にもれた報告書のうち3点が、追加的に特別賞候補にあげられ、これを含めて選考が行われた。各審査委員が特別賞に推す報告書をあげ、多くの支持を集めた報告書についてさらに議論して、最終的に決定した。

なお、受賞企業に対する評価に関しては、別掲の講評を参照されたい。

國部克彦
GRF共同コーディネーター・神戸大学助教授
水口 剛
GRF・バルディーズ研究会運営委員・高崎経済大学講師