環境報告書賞 サステナビリティ報告書賞

はじめに

 環境報告書をめぐる内外の動きは目まぐるしい。さまざまなステイクホールダーからの環境情報開示への要請の高まりを受けて、環境報告書を作成公表する企業数は急増し、国際的なガイドラインを策定しようとする動向も現れている。このような状況を反映して、第二回環境報告書賞には、第1回を大幅に上回る73社から応募があった。応募企業の業種は多様化しており、質的な向上にも目を見張るものがある。日本の環境報告書に関する水準はこの1年間で格段に上昇している。

 企業にとって望ましい環境報告書は規模や業種によって異なるが、環境報告書にとって発展期にあたる現在は、優秀な事例がベンチマークとして作用することが望まれる。受賞企業の環境報告書はいずれもこの役割を十分に果たしうるものであり、現在の日本の環境報告書の最先端に位置している。

講評

 審査にあたっては、まず応募報告書七三点を共催団体の合同による作業部会で受賞候補20点に絞り込み、審査委員会においてその上位10点を最優秀賞(1点)、優秀賞(2点)優良賞(7点)として決定した。さらに特定分野に優れた報告書として、特別賞に3点を選定した。

 最優秀賞に選ばれたトヨタ自動車の環境報告書は100頁をこす詳細なもので、全体的な情報量、個別サイトごとの情報、ライフサイクル指向、第三者意見の添付などの点で高い評価を得た。また、報告書の要約部分や専門用語に対する丁寧な注記も評価された。ただし、報告書に要した頁数と情報量の関係については改善すべき点があるとの指摘もあった。

 優秀賞には日本IBMとリコーグループの環境報告書が選ばれた。日本IBMの報告書は環境に対する真摯な取り組みと実績が十分に伝わる優れた報告書で、環境会計情報の開示も評価された。リコーグループの報告書はコメットサークルという独自のコンセプトを軸にした情報開示の方法と環境データに対する丁寧な配慮が評価された。しかし、総合点において惜しくも最優秀賞とはならなかった。

  優良賞は別掲のように七社が選ばれた。各社について一言ずつコメントすると、大阪ガスは施策・目標・結果の関係がわかりやすいこと、キリンビールは定量的な環境負荷データが充実し開示方法にも工夫がみられること、清水建設は目標・実績・評価の関係が明確であること、宝酒造は緑字決算という独自のコンセプトを打ち出していること、東芝は化学物質などに関して詳細な情報を提供していること、富士通は目標未達成についてきちんと説明していること、松下電器グループは環境負荷データの開示をわかりやすくビジュアル化したことなどが、それぞれ高く評価された。なかでも東芝の報告書は最後まで優秀賞を争うほど高い評価を集めた。

 特別賞については今年度は最優秀賞・優秀賞・優良賞以外から選出することを原則に審査した結果、別掲の理由により、コープながの、ソニー瑞浪、日本国土開発が選ばれた。これらの環境報告書については、特別な分野について参考となる開示方法が評価された。

  最後に、惜しくも入賞は逃したが、水準的には受賞作品とほとんど遜色ない環境報告書が多数あったことも指摘しておかねばならない。特に、流通業界や電力業界の報告書には優れたものが多かった。また、同じく入賞には至らなかったが、金融業、素材産業、廃棄物処理業などでも環境報告書が作成され始めており、事業所別や中堅企業の環境報告書も現れてきたことも指摘しておかねばならない。

  日本企業の環境報告書は新たな時代を迎えようとしている。これは環境報告書が財務報告書とならぶ企業レポートへと発展する段階に到達したことを意味している。

國部克彦
GRF共同コーディネーター・神戸大学助教授