90年代とは異なる。不動産バブルの傷は浅い - 08/10/16 | 20:00

悪いニュースの中に良いニュースが隠されていることがある。現在、日本を襲っている不動産市場の低迷は、そうした例かもしれない。
過去数年にわたって一部の地域で年率2ケタの上昇を続けてきた不動産価格は、一転して地価、物件価格、事務所家賃のいずれも上昇が鈍化、もしくは実際に下落し始めている。東京、大阪、名古屋の106カ所の地価は2007年7月の時点で年率10%を上回る上昇を示した。しかし、今年7月時点では渋谷地区のようにピーク時から30〜40%下落した地区もある。
不動産会社の倒産や不動産投資ファンドの破綻も増えている。4〜6月に銀行の貸倒引当金は前年同期比で70%増加し、4000億円に達しているが、その理由の一つが地価の下落である。
このように暗雲が立ち込める中にも一条の救いの光が見られる。銀行と当局が迅速かつ劇的な対応をとっていることだ。銀行や当局はこれまでのように実質的な倒産状態にある“ゾンビ企業”を支える気はないようだ。“失われた10年”のとき、銀行は経営不振の不動産会社を廃業させるのに何年もかかった。これは銀行自体が過小資本で、不良債権の額が膨大だったからである。政府の巨額の公的資金の注入がなければ、不良債権の償却で銀行の存在が脅かされていただろう。だが現在、銀行は損失が巨額になる前に償却するだけの余力を持っている。そのため今回は不動産のミニバブルがはじけても、経済全体をマヒさせるような金融危機に陥ることはないのである。
銀行の融資状況を見てみよう。不動産価格が回復し始めたことから銀行の不動産貸し出しは急増していた。05〜08年の総融資増加分の内の68%は不動産融資が占めていた。しかし、今年に入って銀行は不動産部門への融資を減らし始めた。
銀行の貸し出し行動が改善された要因は、当局の姿勢が変わったからである。1990年代、大蔵省(当時)は銀行の不良債権の償却を隠すように圧力をかけ、銀行も犯罪とすれすれの会計処理をしていた。大蔵省の下手な言い訳は、真実を明かすと信頼感が損なわれるというものであった。そうした大蔵省のやり方は、問題を大きくかつ深刻なものにしてしまった。大蔵省の政策の反省から設立された金融庁は、まったく逆の戦略をとっている。金融庁は公認会計士に不動産価格の正確な評価を行うように圧力をかけ、銀行には不動産部門への貸し出し基準を厳しくするように指示している。証券取引等監視委員会もJ‐REITに関して同様の対策を講じている。
地価下落の要因は海外ファンドの撤退
なぜ不動産価格は下落し始めたのだろうか。それは日本の不動産市場がミニバブルの状況にあったからだ。多くのバブルと同様に不動産の価格上昇はファンダメンタルズの改善によってもたらされる。02年以降の景気回復で需給バランスが改善するとの期待があった。そのため海外から大量の資金が流入してきた。不動産市場でも、株式市場と同様に外国人投資家の役割が重要になっている。さらに日本の銀行も地価上昇に乗り遅れないように融資を拡大したのである。
多くの企業とファンドが高収益を求めて不動産に投資したが、その多くは新顔であった。その典型的な例が、広島に拠点を置くアーバンコーポレイションである。同社は8月に2558億円の負債を抱えて倒産した。同社は購入した価格よりも高い価格で不動産を転売し、利益を上げていた。不動産に付加価値を加えてから転売するのではなく、価格上昇の波に乗って転売を繰り返していた。しかし、地価上昇が止まったため、同社は苦境に立たされた。銀行も同社を守る気はなく、同社は破綻した。
しかし、なぜ地価上昇は終わったのか。それは米国の金融危機が原因である。日本で多額の投資をしていた外資系ファンドは新規の不動産投資をストップしてしまった。日本で活動している主要な25の外資系金融機関は全従業員の4%を解雇しているが、その多くは不動産部門のスタッフである。モルガン・スタンレー証券とGEリアル・エステートは不動産投資を凍結している。破綻したリーマン・ブラザーズも主要な不動産投資家であった。
このように不動産市場は海外の資金の動向の影響を受けやすいという事実は、日本には需給を決定する基礎がないことを意味している。そうした基盤があれば、仮に外国資金が流出してもそれを補うような国内資金が存在するはずである。
しかし、悪いニュースばかりではない。良いニュースもある。投機的でレバレッジが高いファンドが破綻するか、不動産市場から撤退することで、今度は資金量の豊富な企業が市況低迷を利用して適正な価格で不動産を買い進めることができるからだ。したがって、全般的な不動産市場の低迷はそんなに長く続くことはなく、健全な不動産企業と不健全な不動産企業の選別が行われるだろう。不動産市場の状況が改善するためには不動産の価格修正が必要である。事態は、そうした方向に進んでいるように思われる。
リチャード・カッツ
The Oriental Economist Report編集長。ニューヨーク・タイムズ、フィナンシャル・タイムズ等にも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。当コラムへのご意見は英語でrbkatz@orientaleconomist.comまで。
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