金融史を学べば、レバレッジ逆回転と市場大混乱は予想できた(2) - 08/11/25 | 14:30
――年金運用でも核となる部分は市場インデックスを基準とする運用ですし、投資信託においても、インデックスを意識した運用が一般的です。こうした「相対主義」は廃れるのでしょうか。従来、リスクマネーといえば長期マネーのことでした。ところが、この2003年からの5年間の特徴としては、短期のリスクマネーが世界中に溢れたことが指摘できます。こういったマネーが行き渡ることによって市場が効率化されてしまい、市場インデックスを上回る超過収益の源泉がなくなってしまった。アクティブ運用でリターンを獲得しづらくなったのです。先進国だけでなく、新興国にもマネーが流れるようになった結果、こういった市場でももはや超過収益は得られなくなっています。四半期決算の時代となり、毎日、アナリストが企業に押しかけるような状況では、企業の業績修正もすぐに株価に織り込まれてしまいます。もはやAとBの比較といった「空間軸」には超過収益の源泉は乏しいと考えられます。
あまりにも短期で物事を考える投資家が増えてしまったことで、むしろ逆に長期と短期の時間差、「時間軸」を利用した長期投資が有効な時代になったのではないかと見ています。本来、長期投資家であるはずの年金も、四半期という短期でベンチマークを上回ることを目指している状況です。だからこそ、長期的なスタンスに基づいて株価が下がったところを買える投資家、長期投資家が超過収益を得られる可能性が高まっているのです。
テクニカルな話ですが、短期でリターンを追っていくと、長期のリターンがむしろ減ってしまうことがあります。われわれが追求するのは長期の複利リターンですが、いくら短期の平均リターンが大きくても、ブレも大きければ長期の複利でのリターンは落ちるケースがあるのです。つまり、長い目で運用するときには、ポートフォリオのボラティリティは小さい方がいいわけです。
ところが今のベンチマーク重視の運用では、発想がまったく逆です。大きくブレるインデックスに対して、このくらいの許容幅でいこうといった運用なのですから。本物の資産運用では、絶対リターンを基準にしてブレがどれだけあるかを考えないといけないですね。「長い時間軸でみないと、資産運用は成り立たない」という原点に戻る時期でしょう。今回の大きな株価の下落も、あまり振れ幅の大きい運用は回避される契機になると考えています。
そういう観点から、「貯蓄から投資」ということが言えないと、こういう現象、大暴落が起こってしまうと「投資は怖い」「投資でなくて投機だ」ということになってしまいます。レバレッジの時代は「リターンを追う投資」でしたが、デレバレッジの時代になってくると、「リスクを極小化する投資」が注目されると考えています。
――時代に先駆けて、絶対リターンを重視し、長期投資を実践しているような投資家はいたのでしょうか。
日本の場合、意外と投資家とは思われていない人がそういう動きをしているような気もします。一般大衆で多少おカネを持っている人がむしろ目先が効くのですね。1990年に農林中金、日本興業銀行の前で列をなしてワイドを買った人は、ちょっとおカネを持った普通の人たちですよ。プロのファンドマネージャーは金利がもっと高くなると考えて、7、8、9月とみな売り一辺倒でした。そこで9月の金利が最も高くなったのです。素人の方はそこで、「二ケタ金利なら買いだ」と10%を超えるリターンのワイドを買いにまわったのです。当時、私は債券のファンドマネージャーをしていたのですが、「素人の方がプロより賢い」と判断して、ワイドのベースとなっていた利付金融債を購入したのを覚えています。
今回も、中部地方のある証券会社の店頭では、数億円単位で某自動車の株を買う人がいるなどといった話も聞きました。こういう人は、今まではいっさい株なんか持っていないですね。ここにきて買いに来るわけです。農家の方で90年、91年頃に土地を売ってワイドを買って、5年間は10%でまわし、95年から96年になると銀行が危ないのでタンス預金にしている。そういう人の中には2003年に株を買った人がいるかもしれませんが、2005年頃には売ってしまっている。そこから買っているのがデイトレーダーなどでしょう。それで今般、株が下がったのでまた買いに来た。ここで、某自動車株を買った方も、「短期で儲かる」「利益がうんぬん」といった理由で買ったのではないでしょう。リスクを取れる一部の個人投資家は、長期投資家としての動きが出来ているような気がします。
(第二回は26日、第三回は27日に掲載予定です)
プロフィール
1989年大和證券投資信託委託入社。1994年青山学院大学大学院国際政治経済学研究科卒業。1997年より東京海上火災保険、現在は東京海上アセットマネジメント投信(株)運用戦略部チーフファンドマネージャー。(財)年金総合研究センター客員研究員(2001年度、2004年度)、経済産業省産業構造審議会臨時委員(2005年)、東京工業品取引所指数運営特別委員会委員、農林水産省「農産物商品市場の機能強化に関する研究会」委員、『クラブ・インベストライフ』月刊会報誌編集委員。
著書に、『金利史観』(ISコム)、『市場から国債を考える』(編著 ISコム)、『自分の年金は自分でつくる!』(共著 実業之日本社)、『リスクマネー・チェンジ』(共著 東洋経済新報社) 、『国債と金利をめぐる300年史』(共著 東洋経済新報社)、『 ハートで感じる長期投資の始め方』(エクスナレッジ社)、『振り子の金融史観』(シグマベイスキャピタル)などがある。
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