同じ時のなかで スーザン・ソンタグ著/木幡和枝訳 〜アメリカの良心と知性の透徹した思想の書 - 09/11/24 | 08:00 | ![]() [+]画像拡大 |
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評者 『インサイドライン』編集長 歳川隆雄
透徹した思想の書である。高踏的と言われればそうだ。
著者は、2001年の9・11、アメリカへの同時多発テロの直後、実行者たちを「臆病者」と呼んだブッシュ前大統領に対し、そのカウボーイ・スタイルの報復姿勢をメディアで公然と批判した。
そのアメリカの良心と知性を代表する作家・批評家の最後のエッセイ集である。
04年末骨髄がんで逝った彼女は、1960年代半ばからの日本における「全共闘世代」の反乱、その文化戦線の文脈において忘れがたい存在だ。
『反解釈』『ラディカルな意志のスタイル』を相次いで発表し、その華やかにして過激な論調は「グリニッチ・ヴィレッジのナタリー・ウッド」と呼ばれたほどの美貌と相まって記憶に鮮やかである。
本書には最後の数年間に書き、語った芸術論、状況への発言、そして03年エルサレム賞受賞講演「言葉たちの良心」ほか、二つの受賞講演を含む16のテキストが収められている。
04年にイラク、アブグレイブ刑務所における捕虜虐待が発覚し、収容者の拷問写真がネット上で世界中に漏洩した。この事態に関連して、下級兵士から当時のラムズフェルド国防長官に至るまで、米軍部の腐敗を解剖する論考は、単に反戦論に終わらない。
現代社会の不安は、デジタル技術によって根底から変容を余儀なくされ、世界中の人々の眼差しの下に置かれる。「生きることは写真を撮られることだ」と、現代人の自己表現への渇望を著者は見事に看破する。
はては児童ポルノやブログに蔓延する匿名の暴露嗜癖にも言及を忘れない。著者はそれらを「無限反射するデジタル版の鏡の間」だと警告する。
かつて日本においても一世を風靡した『写真論』の著者の洞察には、けだし傾聴すべきものがある。
表層的なポストモダンの軽快さに溺れない著者の真骨頂は、所収の「消し尽くされぬもの」の革命と文学論にある。
それは、ロシア革命に身を投じレーニンにも近く、六つの国で生き1947年に亡命先で客死した作家ヴィクトル・セルジュの評価によく表れる。
スターリン時代の血の粛清の引き金となった要人暗殺をもとにした小説『トラエフ事件』の著者であるが、「フィクションの真実は歴史の真実より勝る」と断言する。彼を通して、プロパガンダに矮小化されない革命的な小説に久しぶりに出合うことができる。
オバマ大統領の登場を見ずに逝った彼女は、今の世界をどう解析するだろうか。翻訳も秀逸。
Susan Sontag
1933年ニューヨークに生まれる。シカゴ大学、パリ大学などで学んだのち、文化批評、映画批評、小説の分野で目覚ましい活動を続けた。2004年没。著書に『反解釈』(ちくま学芸文庫)、『ラディカルな意志のスタイル』(晶文社)、『写真論』(同)など。
NTT出版 2730円 341ページ

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