(第3話)舞妓さんの「多面的な気遣い」を育む言葉(3) - 09/02/05 | 09:01 |
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●おかげさんどす
舞妓さんの毎日は、朝から晩までみっちりとスケジュールがつまっています。朝10時ごろ〜午後2時ごろまでは学校(女紅場)、夕方からお化粧に着付け、午後6時ごろから日付のかわるころまでお座敷と、眼の回るような忙しさです。その上に、四季折々の行事ごとも多く、デビュー直後の1年間は、「ほんまに、毎日、毎日、夢中どした」と、話してくれる舞妓さんが多いです。お紅をしっかり引けるようになった舞妓さんに(1年目は下唇にしかお紅をさすことができません)「よう、1年気ばったなぁ」と声をかけると、「おおきに、おかげさんどす」と、お礼の言葉「おおきに」とともに、「おかげさんどす」と感謝の言葉が返ってきます。私は特別親切にした覚えはありませんが、「おかげさま」と言われるのです。
「うちが1年間気ばらせてもろうたのは、○○さん姉さんのおかげなんどす」と、いつも親身になってもらっている人に対して「おかげさんどす」と言うことには違和感はありません。でも、直接関係のない私にも、なぜ「おかげさんどす」と言うのでしょうか?
それは、見守られていることへの感謝だと私は思います。常日頃誰に何をしてもらったか、行為を特定して感謝することも大切です。でも、置屋やお茶屋のお母さん、芸妓さんように関係性がはっきりしている誰かだけでなく、舞妓さんになる過程には、たくさんの人たちの見えない支えがあります。
お紅を上下の唇にさせたことに対してかけられた祝いの言葉を、単に様子を見られているととらえるか、見守られることに感謝して受け取るかが、周囲に人たちとよい関係を築けるかどうかにかかわってきます。誰かから見守られていると思えるからこそ、今すぐに成果がみえなくても、手を抜かずにしばらく努力を続けてみようと励む、ひたむきな気持ちが湧くことにつながるのです。

千社札:舞妓さんの名刺がわりとなる千社札。2〜3センチの小ぶりなもので、シールになっている。財布に張ると「お金が舞い込む(舞妓む)」といわれ、縁起物とされている。写真は宮川町の芸舞妓さんのもの。
西尾久美子(にしお・くみこ)京都女子大学現代社会学部准教授
京都市下京区で数代続いた米穀商の家に生まれる。京都府立大学女子短期大学部卒業後、大阪ガス株式会社勤務、滋賀大学経済学部を経て、2006年3月神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。同年4月より神戸大学大学院経営学研究科助手、同年10月より神戸大学大学院経営学研究科COE研究員、2008年4月より現職。専門は経営組織論、キャリア論。
著書に『京都花街の経営学』(東洋経済新報社、2007年)がある。
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