(第49回)“1/2”リーマン予想(後編)(3) - 09/11/15 | 21:00
●リーマンゼータ零点探査の旅
もう一度リーマンの言葉を読んでみよう。
私は少しばかり粗雑で成果のでなかった試みの後に、差し当たりこの証明には手をつけないでおくことにした。
とある。「少しばかり粗雑な試み」こそまさに前人未踏の零点探査の旅のことである。マゼランの航路世界一周達成にも匹敵する超人のなせる偉業であった。その後の多くの数学者の努力によって50年以上かけて検証と完全な証明が与えられていったのである。その結果、零点すなわちゼータ方程式の解は次々と発見されていった。ζ(1/2±(14.1347…)i)=0、ζ(1/2±(21.022…)i)=0、ζ(1/2±(25.0109…)i)=0、ζ(1/2±(30.4249…)i)=0、…
これら解はすべて1/2±αiの形をしている。つづくリーマンの言葉を読んでみよう。
実際、この領域内にほぼこれと同じくらい多くの実根があって、しかもそれらの根がすべて実根であることはきわめてたしからしいのである。
この実根というのが1/2±αiのαのことである。リーマン予想とは、ゼータ方程式ζ(s)=0の解について、オイラーが見つけた自明の解(-2、-4、-6、…)以外はすべて1/2±αiであるということなのである。これが、「零点が直線 Re(s)=1/2上にある」という零点をつかった表現になるのである。ζ(1/2±αi)=0
そこで複素数の範囲で見つかるこの解を非自明な(本質的)解と呼ぶのである。リーマンのこの一文だけが証明されずに現在に至っている。コンピューターを用いた零点探査は続けてられており、15億個の零点が1/2±αiであることが確認されている。この1/2とは0と1のちょうど真ん中ということなのだが、なぜリーマンゼータの非自明な(本質的)零点のすべてが1/2±αiなのか、リーマン予想とはこの1/2の謎のことであり、リーマン予想の証明とは1/2であるの理由が示されることに他ならないのである。
0と1の間にあるということがわかっているだけで、0.1と0.9の間という具合にこの範囲を絞り込むことすらできていないのが現状である。1859年の11月からちょうど150年経つが、この間実質的にほとんど進展がないといってもいいほどリーマン予想は難しい。
リーマンの主張はあくまでも素数であった。リーマンゼータの零点を集めれば、素数の個数が素数定理よりもはるかに(実は究極に)精確にわかることを言いたかったのだ。このとき、リーマンゼータの"すべて"を考えることがどれだけ深遠なことなのか、39歳でこの世を去ったリーマンは知る由もなかった。
1994年、350年以上かけて解かれたフェルマーの最終予想はまさにリーマンゼータの威力のおかげであった。その難関フェルマーの最終予想でさえ、リーマン予想を必要としていないことに驚かされる。「数とは何か」その問いは「宇宙とは何か」「生命とは何か」「心とは何か」と同等の根源的問いであることをリーマン予想こそが私たちに教えてくれる。今まさにリーマンゼータの核心に人類は迫ろうとしている。
21世紀のオイラーは必ず現れる。重い扉が開かれた先に見える風景を見る日は近いのかもしれない。
●リーマンクライシスが人類を襲う
昨年のリーマンショックのリーマン兄弟商会(リーマン・ブラザーズLehman Brothers)はリーマン予想のリーマン(Riemann)が生きていた同時代に産声をあげている。リーマンショックは100年に一度の経済危機と騒がれているが、もし今リーマン予想が証明されたならばその影響はその比ではない。それこそ真なるリーマンショックとなり、リーマンクライシス(数学のリーマン予想の解明が招く経済上の危機)に至るのである。さらに事態は深刻である。セキュリティシステムの暗号技術は経済以外に軍事防衛上においても根幹をなしている。そこに影響が及ぶとすれば、全地球的に計り知れない影響をもたらすことは容易に想像できる。皮肉なことにリーマンショックを招いた根底には数学や物理学を駆使して開発された金融商品の存在があった。経済や商業では、取引される実体に代わる「数」がやりとりされる。そこに数学が活きてくる。「数」の利便性と「数」を実体として扱う危険性の狭間に人間社会は存在している。その数の素である素数はわれわれの想像を超えた仕組みの上に存在していることをリーマン予想は教えてくれる。リーマン予想が解き明かされるその日を、最高の期待と最悪の不安が交錯する中で人類は生きていくことになる。
桜井進(さくらい・すすむ)1968年山形県生。東京工業大学理学部数学科、同大学院卒業。
sakurAi Science Factory主宰、サイエンスナビゲーター。東京工業大学世界文明センターフェロー。
在学中から塾講師として教壇に立ち数学や物理を楽しく追求する。講師をする傍ら、身近なものや数学者の人間ドラマを通して数学の楽しさや美しさを伝える「サイエンスエンターテインメント」活動を展開。2000年よりスタートした講演は日本全国で反響をび、現在も数学のロマンをナビゲートし続けている。テレビ出演、聞・雑誌などに掲載され今話題となっている。
【番組出演・新聞・雑誌掲載など】
読売新聞科学欄「サイエンス」講演活動掲載、『めざましテレビ』(フジテレビ)密着取材、『銀幕会議』(フジテレビ)『博士の愛した数式』映画紹介、文科省主催「サイエンスラウンジ」、「サイエンスキャバレー」に出演、雑誌『ダヴィンチ』7月号・8月号にて一青窈さんと対談、『たけしの誰でもピカソ』(テレビ東京)「数学で美しくなる」に数学の伝道師として出演中、他多数。
【著書】
『数学のリアル
【公式Webサイト】
sakurAi Science Factory Web Site http://www.ssfactory.net/
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