(第21回)<大林宣彦さん・中編>「ゆとり教育」に期待したが…(1) - 07/06/30 | 09:00
●映画も勉強も学びの場だった
僕は映画が大好きでした。ときには隣の席に先生が座っておられることもありました。映画が終わって先生と話をしていると、
「同じ映画を観てもこんなに考えがちがう。これをクラスのみんなに観せたらきっとみんな考えが違うぞ。今度の授業はやめにして、みんなでこの映画を観に来よう」。学校のみんなで映画を観て、それぞれのシーンの考えを発表して、60人、みんな考えが違う。それが芸術の素晴らしいところです。
「世の中には答えがひとつということはないんだぞ、数学や理科はとりあえず答えがひとつだが、これは今の大人が真実だと思って決めていることだからそれは守らなければいけない。しかし、人間のやることは間違いも多いから、それに疑問を持つことが、いつか君たちがより正しい答えを見つけることにも繋がる。そのためには、数学や理科の時間でも、僕だったらこう考えると、そう考えて数字をみつめるようにしなさい」。
素晴らしい先生ですよね。それから、「大林は、映画のことは先生より得意そうだから、これから学校で観る映画は大林が決めろ」ということで映画委員になってね。僕は誇らしくてね(笑)。
●よい芸術家になることを、ショパンのピアノに誓う
中学生の頃、ショパンの人生を描いた『別れの曲』という映画を観ました。ロマンティックで悲しい物語です。「これは、ショパンをやらなくては!」と、毎日映画館に通って、我が家のピアノで再現するのですが、音が違う。後で知ったのですが、俳優は割とでたらめに指を動かしているようなのです。それで、今度は耳で聞いて曲を再現していく。するとショパンの『別れの曲』や『英雄ポロネーズ』という曲が弾けるようになるのです。僕に音楽の才能があったのかもしれないけど、楽譜も読めない。耳だけの自己流でやっちゃうんですからね(笑)。
近隣の校長先生が参観に集まられる時、ピアノを弾く機会がありました。僕にとってピアノを弾く=ショパンになるってことですからね(笑)。ショパンになるには鍵盤の上に赤い血を吐き散らしながら演奏しなければなりません。それを母親に相談したら、 「トマトケチャップを水で薄め、それを口に入れて吐き出したらいい」。とね(笑)。
当日、思い切って『英雄ポロネーズ』を演奏する。こっそり、トマトケチャップを口に入れて。
♪チャーンチャチャン、ペペペッ、チャチャチャチャチャチャ、ペッペッ♪
演奏して、ピアノは真っ赤になり、僕の口も真っ赤になり、万来の拍手喝采がくるか、 と思えば、シーーーーーーーン。
またそこで、失敗したと気づくんですね(笑)。
終戦直後の貴重なグランドピアノ。鍵盤の間にはトマトケチャップ。ハンカチで拭いてみたけど、どうにもならない。いつの間にか、講堂は誰一人いなくなり…すると、後ろから校長先生に肩をトンと叩かれてね。どんなに叱られるかと思ったら、「お前のせいで学校のグランドピアノももう使い物にならん。しかしのう、お前がこれから自分の好きなことに精進して、よい芸術家になれば、このピアノはきっと喜んでくれる。お前がそうならなんだら、ピアノは哀しむぞ。ピアノが喜んでくれるようなええ芸術家になれよ」。
ただそれだけだったのです。そのことが今でも頭をかすめ、映画を撮って、「OK」と言った途端に、「ピアノは許してくれたかな」「まだダメかな」と思っていますね(笑)。
バックナンバー
- <弘兼憲史さん・後編>子どもは甘やかさず、格差を自覚し生き方を学ばせろ -08/05/09
- <弘兼憲史さん・中編>合理的な行動で成功を重ねる -08/05/09
- <弘兼憲史さん・前編>壁新聞の制作で編集能力を培った -08/05/08
- <森下洋子さん・後編>バレエへの思いはゆるぎなく、変わらない -08/03/30
- <森下洋子さん・前編>「娘はバレエにあげちゃった」親の勇気に感謝 -08/03/28
- <知花くららさん・後編>学校は好きなことをみつけられる場所であって欲しい -08/01/26
- <知花くららさん・前編>ミス・ユニバースと編集者の選択で揺れる -08/01/24
- <石田純一さん・後編>いまだに夢を追い続ける日々 -08/01/10
- <石田純一さん・前編>全学バリケード封鎖により学問の本質を知る -08/01/09
- <杉山愛さん・後編>テニスで学んだことは人生に置き換えられる -07/11/15
- <杉山愛さん・前編>テニスに恋焦がれる -07/11/13
- <佐藤弘道さん>テレビのヒーローに憧れて体操を志した -07/10/23
- <米倉誠一郎さん・後編>チャンドラー先生から受けた恩は学生に返したい -07/10/05
- <米倉誠一郎さん・前編>ビートルズから自由を学ぶ -07/10/03
- <田尾安志さん・後編>指導者に必要なのはまず人間性 -07/08/30
- <田尾安志さん・前編>野球にずっと飢えていた中学、高校時代 -07/08/28
- <寺田恵子さん・後編>素晴らしい先生ばかりにめぐりあえた -07/08/10
- <寺田恵子さん・前編>いじめで胸の奥が痛んだ… -07/08/08
- <前園真聖さん・後編>子どもとサッカーをするのが幸せ -07/07/20
- <前園真聖さん・前編>サッカー以外考えられなかった -07/07/18
- <大林宣彦さん・後編>50年後の子どもたちに伝える映画を作る -07/07/03
- <大林宣彦さん・前編>落とし穴に落ち続ける校長先生から学ぶ -07/06/27
- <泉麻人さん・後編>放課後を楽しんだ -07/06/12
- <泉麻人さん・前編>宿題の日記が今の仕事の発端に -07/06/08
- <中江有里さん・後編>母がいじめを解決してくれた -07/05/20
- <中江有里さん・前編>他人に甘えてみて先が開けた高校時代 -07/05/15
- <東国原英夫さん・後編>小学生のときの夢「芸人と政治家になる」を実現 -07/04/29
- <東国原英夫さん・前編>家出で人生を学ぶ -07/04/24
- <竹内誠さん>地域再生が教育の鍵となる -07/04/10
- <乙武洋匡さん・後編>のび太もスネ夫もジャイアンも認めあえるクラスを作りたい -07/03/27
- <乙武洋匡さん・前編>僕だからこそ伝えられることがある -07/03/27
- <加藤丈夫さん・後編>教育の質を上げるなら教師の待遇をよくすべきだ -07/03/20
- <加藤丈夫さん・前編>クラブ活動で人間関係を学んだ -07/03/20
- <室井佑月さん・後編>学校が子どもの心の問題までケアできるわけがない! -07/03/06
- <室井佑月さん・前編>学校は我慢の場、学校が辛いほど大人であることを楽しめる -07/03/06
- <金哲彦さん・後編>スポーツで自分で考える力を会得できる -07/02/20
- <金哲彦さん・前編>自分で考え、歩んできた人生に後悔はない -07/02/20
- <高木美也子さん>「この先生にはかなわない!」先生は、生徒が尊敬できる何かを持っていた -07/02/06
- <小林崇さん・後編>いつかツリーハウスを使って学校のようなものを作りたい -07/01/16
- <小林崇さん・前編>アイデンティティを出すには、一度はたたき壊すこと -07/01/16
- <小池百合子さん>自分の人生を自分で切り開くための「術」を学べばよい -06/12/26
- 食を地球的な課題と多様性を持って考えよ――『世界クジラ戦争』を書いた小松正之氏に聞く -10/03/12
- 2060億円――映画の興行収入(2009年)《気になる数字》 -10/03/11
- 《書評》「独裁者」との交渉術 明石康著 -10/03/11
- 《書評》日本人だけが知らない日本人のうわさ 石井光太著 -10/03/11
- いつの間にかのスリム法・その9 -10/03/10























