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第2回東洋経済CSRセミナー テーマ:なぜCSRに取り組むのか?

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2014年8月22日



 2014年7月9日に「第2回東洋経済CSRセミナー ~なぜCSRに取り組むのか?~」を開催した。参加者は77名だった。今回はその模様を報告する。

1.講演
2.パネルディスカッション

■講演 「競争戦略としてのCSR」

 CSRは何のために行うのか、目的に悩む人は少なくない。そこで、今回は今後のCSR活動の参考となるよう、ピーター D.ピーダーセン氏に「競争戦略としてのCSR」というテーマでご講演いただいた。

【講演者】
ピーター D.ピーダーセン(ソーシャル・デザイナー)
=敬称略、役職は2014年7月9日時点

CSRは差別化とイノベーションの時代へ

 CSRとは企業行動を通じて、健全な社会の営みに貢献し、持続性のある社会や文明の構築に貢献するということに尽きます。

 近年、産業資本主義の負の部分があちこちにみられるようになりました。どのような役割を果たすか、まだ答えは出ていませんが、社会課題における企業の役割が求められるようになっているのです。

 ここ、30~40年のスパンで考えても、80年代であれば法令順守・コンプライアンスだけをしていれば「よい会社」と思われていましたが、90年代になると法令順守やコンプライアンスにプラスして、積極管理とアカウンタビリティも求められるようになっています。ただし、現在はそれでも物足りない時代になりました。

 差別化やイノベーションをどう図っていくかが問われているのです。

ステークホルダーとの対話の重要性

 こうした変化には、ステークホルダーという概念が認識されるようになったことも、大きな要因です。さまざまな面で企業に期待が寄せられるようになったのが90年代です。
 「労働条件の整備」、「コミュニティ社会への貢献」、「環境問題への取り組み」が3つの大きなテーマとなっています。

 CSRを語る上で、もうひとつ大事な概念として、ステークホルダーという概念があります。ステークホルダーに関して、印象的な事例がありました。数年前に三井物産や三菱商事がロシアのガスプロムと一緒にサハリンでの天然ガス開発プロジェクトを行ったときのことです。

 サハリン島の住民、お金を出すJBIC(国際協力銀行)、北海道庁、現地のスタッフ、自然環境や動物の保護を行う団体「地域の友」などのステークホルダーが集まり、非常にホットな議論を行いました。このように活発な意見交換ができれば、課題発見もでき、リスクマネジメントにも、期待の発見にもつながります。

企業の制約はチャンスにつながる

 現在は企業の制約条件が深まっています。制約条件が厳しくなったために、壁にぶつかりやすい状況にあります。制約が深まるばかりで行動範囲は狭まるばかりのように思えますが、必ずしもそうではありません。


 先にある壁を打ち破れば、非常に大きな成長を手に入れることもできます。日本という視野に限れば市場は先細りに見えますが、世界人口は増加していて、生きるための経済を拡大させています。世界中の人が、それなりに妥当な生活をするために必要なインフラは、これから何十年も100%の確率で拡大していくでしょう。

 そこには、ビジネスチャンスが無尽蔵にあるはずです。

CSRゼロ線を上回る活動を事業と連動させる

 さて、数十年CSRを研究してきた自分なりの解をお話しします。大事なのはCSRゼロ線の存在です。これは社会の期待値と言い換えられます。ゼロ線より下はきちんとしていなければ、リスクとなるし、それより上の領域を行えば、機会の創出と差別化ができます。

 一番根底にあるのは、危機管理、リスクマネジメント、コンプライアンスなどです。その上に、積極管理、プロアクティブマネジメントがあります。この積極管理の部分はCSRゼロ線の上に顔を出すというイメージでとらえるとよいでしょう。

 CSRゼロ線を上回るところに2つの箱があり、ひとつの箱には社会活動やソーシャルエンゲージメントなどが入ります。もうひとつは、事業革新・サスティナブルプロダクツ&サービスの領域です。さらに、これらの社会活動と事業活動を連動させることができれば理想的です。

 このような枠組みで、自社と競合他社を比較してみるといいと思いますし、自社のCSR活動のヘルスチェックに使うことをお勧めします。

 ちなみに私はCSRをすべて社内の同じ部で行う必要はないと考えています。海外では担当する部署を分けている企業もあります。サスティナビリティ・イノベーションは事業分野にどんどん入り込んでいく必要があるからです。世界にはたくさんの事例があり、いろいろな取り組みがあるのでぜひ見てほしいと思います。

CSRを第5の競争軸に

 CSRは21世紀の優良企業の前提条件です。企業価値の創造につながるのかというより、つなげなければならないのです。

 これまでは価格、自己変革力(ビジネスモデルのイノベーション)、マーケットシェアを拡大、品質を高めることの4つが企業の競争力を決めていました。

 現在はこの4つに加えて、持続可能性の追求と環境経営の追求、つまりCSRの追求が大事になっているのです。これこそ「第5の競争軸」といえます。

大手から中小まで多くの先端事例が存在する

 では、いくつか具体的な事例を交えてお話していきます。

 一つは東京海上日動火災保険が99年に始めた東南アジアでのマングローブの植林事業です。保険契約時に発行する約款をWEB約款にすると、その代わりにマングローブの苗木を植えるという取り組みです。本業での環境負荷の低減と社会貢献の実現を同時に達成することができるという事例です。
 
 次にご紹介するのはユニリーバの事例です。同社は世界的NGOのWWF(世界自然保護基金)と組んでMSC(海洋管理協議会)を設立しました。
 MSCはラベルの認証機関で、持続可能な漁業を行う会社のみにラベルを貼ることを認めています。ユニリーバは自社の市場の存在が危うくなるという危機感から、社会貢献と本業を兼ねた形での活動を行っています。

 続いて、環境イノベーションの事例として、3Mの3Pプログラムを紹介します。3Mは、①汚染物質をなくすか減らすか、②エネルギー・資源効率に寄与するか、③技術革新を生むか、④経費削減、売上増に貢献するか、という4つの問題をクリアする社員提案を募集し、その効果を数値化しました。
 2005年までの30年で、6300の社員提案を採用し、118万トンの汚染物質を削減、10億ドル以上の経済効果を生み出しました。同社は「環境分野の最前線」とは言いませんが、環境イノベーションで社員の提案を生かし、その効果を数値化した事例です。

 さらに、もう少し小規模の事例をご紹介します。インターフェイスは売上高1000億円、7000人の従業員を抱える普通の企業です。
 社員から環境ビジョンを問われたレイ・アンダーソン会長は、環境に目覚め、自社が世界初の持続可能な企業になることを目指し始めました。
 世界的な専門家を集めたエコドリームチームを結成し、工場の固形廃棄物を6分の1に減らし、CO2は41%削減に成功しました。この究極の活動は、ウォルマートやGEの手本となりました。

 最後に小さな会社の事例として、ソーシャルベンチャーB-Labが行うベネフィットコーポレーションの認証事例を紹介します。この取り組みにも大企業からベンチャーまで、賛同した1000ものブランドがこの認証を得ています。主流だけでなく、周辺での変化に目を向けることが必要といえる事例でしょう。

講演のまとめ

 社会は第3のステージに移行しつつありますが、その要因として経済活動による負の面が出ているというのが大きいでしょう。さらに、ステークホルダーの概念が広まったことも大きな要因です。企業を取り巻く制約条件が深まっていますが、戦略的に取り組めば、企業の競争力向上につながるはずです。

 また、ご紹介したCSRゼロ線のモデルを生かせば、CSR戦略の手助けになるかもしれません。

■パネルディスカッション
「新人担当者と考える!どこをゴールにCSR活動を行うのか?」

 セミナーの後半は、パネルディスカッションを行い、若手のCSR担当者たちと一緒に「CSR活動のゴール」について議論した。

【パネリスト】
ピーター D.ピーダーセン(ソーシャル・デザイナー)
●加藤 佑(株式会社ニューラル 代表取締役Co-CEO)
●西村 卓美(サンデン株式会社 総務本部 広報・CSRグループ)

【モデレーター】
●岸本 吉浩(東洋経済新報社『CSR企業総覧』編集長)
=敬称略、役職は2014年7月9日時点

国家を超えた存在としての企業の責任の増加

 ――なぜ企業はCSR活動に取り組む必要があると考えますか?

■西村:

 企業が存在する目的は、売り上げを増やし、利益を出して、納税をして、雇用を生むことだと思います。CSR活動を行うことでこの循環をさらによくできると予想できるのですが、実際はよくわからない面もあります。

■加藤:
 
企業の求められる役割が変化したからだと思います。
世界の人口は増加を続けていますし、人、モノ、カネが国境を越えて移動するようになってきました。これにより国単位でマネジメントする仕組みが、ガバナンス不全に陥っています。
 国家予算をしのぐ売り上げの企業もありますし、グローバルに展開するほど事業活動に関連する社会課題も増えてきます。​こうした問題の解決を期待されるようになっていると考えます。

■ピーダーセン:
 CSRは難しい面もあります。会社として難しいのは危機に直面しないうちに行動することです。その際に何が人々の心を動かす動機づけとなるのか。それは、金儲けではなくて、大義があるかどうかです。

 CSR活動をリスクから入る企業もありますが、それよりも大儀が重要です。
 ただの価値提案ではなく、価値観の提案を包み込んで商品を売るようなやり方が必要かもしれません。
 大きい会社では理解している経営者は増えています。ただ、大企業ほど、マネジメントのやり方を変えにくいというのが現状です。

企業統治は抑えつつイノベーションに軸足を

 ―― リスクという話が出てきましたが、この面でのお考えは?
 
■西村:
 CSR活動の中には、自社のCSR報告書の作成以外に、東洋経済などのアンケートへの回答もあります。最近、特に取り引き先からのCSRアンケート調査が増えてきており、年々その評価も厳しくなっています。
 たとえば、数年前は3段階評価だったものが5段階評価になったり、直接工場に監査に来たりするケースが出てきています。

 最終的に評価の悪化でビジネスがなくなってしまうというリスクはあります。
 ただ、これが行きすぎるとリスク面のみやっていればよいという考えにもなりかねません。幣社はBtoB企業ですが、CSRを事業に結びつけることが難しく、リスク対策に留まってしまっている面もあります。
 さらに、ここから一歩進まなければならないと考えています。

■ピーダーセン:
 BtoBの企業のよい例としてGEがあります。同社はBtoBがメインの会社ですが、環境という側面から、マーケティングキャンペーンを行い、数年のうちにライバルから垂涎の的となるような、先進的な企業に変身しました。
 ステークホルダーエンゲージメントという言葉がありますが、最も大事なステークホルダーには、企業自ら働きかける必要があります。たとえば、顧客に、「うちではこのようなことをやっていますよ」と積極的に伝えることで、CSRを強みにできます。このような取り組みで企業価値を高められるのです。

■西村:
 弊社も「企業価値の向上」を重視していますが、企業価値向上とは売り上げを増やし、利益を出すことだと認識されがちです。地域との協力を深めましょうとか、ステークホルダーとの関係を深めましょうということと企業価値の向上は、結びつかないと思われている気がします。

■ピーダーセン:
 企業価値の再定義は必要でしょう。大事なのは、素晴らしい取り組みを通じて、内外の人との共感をつくることです。従業員の自社に対する誇りを高めることにもつながるし、外部の顧客は、同じような価格で並んだときに、「共感できるあの会社にしよう」となります。天秤にかけた時に、「共感」を選択の要因にしていくのです。

■加藤:
 海外でも注目事例があります。企業価値の再定義として紹介したいのがユニリーバです。同社は短期の市場圧力が長期的視点の投資がしにくい原因と判断しました。そこで、四半期の利益の発表を中止しました。
 一次的に株価は大きく値下がりしましたが、そうすることによって、短期的な利益追求型の株主がユニリーバから離れていきました。
 そして、長期のリターンを望む株主が中心の株主構成に変えることで、自分たちがやりたいことができるようになったのです。

 もし企業に意思があれば、ステークホルダーを変えていけるし、どういうステークホルダーと付き合っていくかも選んでいけるということを示す例だと思います。

■ピーダーセン:
 企業の価値創出につなげるのは、仕掛け力が必要です。日本の優良企業では、内外の方々のイノベーション力、提案力を生かせていないと思います。
 日本企業ではイノベーションにつなげるために、アイデアを集める仕組みが少なすぎます。面白いアイデアを集める、アイデアコンテストなどを実施し、本来の社員の力を引き出す仕掛け力が必要です。
 ただし、基準が明確であることが大切です。売上増になる、コスト減につながる、新ビジネスにつながるなど、明確な基準を示してください。

 CSRを義務的にやっている企業が一歩踏み出すためには、CSRを「企業統治とサスティナビリティイノベーション」と言い換えるのがよいと思います。企業統治、ガバナンスはしっかりやらなければいけませんが、その上のサスティナビリティイノベーションをいかに行うかということが大事だと思います。

最終目標はエクセレントカンパニーであり続けること

 ―― CSRを進めていく上での悩みは?

■西村:
 弊社ではCSRは管理部門の中にあり、事業部門と別にあります。事業部門も活動を担うべきでしょうが、その具体的なテーマや項目がピンと来ません。また、それをどう訴えかけていけばいいのかも悩みどころです。

■ピーダーセン:
 日本企業のCSR部には、一つの箱の中に相容れないものを複数入れてしまっているという感じがあります。まったく異なる企業統治的な要素と事業革新が、同じ分野として扱われています。企業統治は抑えつつ、イノベーションの方に軸を移してはどうでしょうか。

 ―― 最後にまとめをどうぞ

■西村:
 CSRの視点で、会社の中期計画に入れてそれを達成することが、重要だと考えています。また、CSRを企業に浸透させるためには、企業理念から入るしかないとも思います。企業理念は企業にとって非常に大事ですので、企業理念を実現するためのCSRという位置づけにしなければいけないのではないでしょうか。

■加藤:
 私はCSRのゴールは、企業のサステナビリティを高めることに尽きると思います。国連グローバル・コンパクトとPRI(責任投資原則)が、バリュードライバーモデルというモデルを用いて、さまざまなCSR活動が最終的にどのように企業の利益につながっていくのかを、大きく3つに分類して整理してくれています。
 CSRの価値を社内で共有するためのよいツールだと思いますので、ぜひご活用ください。

■ピーダーセン:
  CSRの最終目標は、自社の耐性を高めて、ずっとエクセレントカンパニーであり続けることだと考えます。理想の姿はトップダウンでも、ボトムアップでもなく、循環型のモデルです。常に新しいアイデアが、循環型で回っている。それがCSRの本当の姿でだと思います。

質疑応答

■質問:
 私は、CSRを競争力にするには、別の次元でやっていかなければいけないような気がしています。募金とか植林とかしなければならないのでしょうか。思い切って資源を投下して、投資をするべきでしょうか。

■ピーダーセン:
 
商品軸の周りで何ができるのか、ただ単に寄付をやるだけでなく、どういう価値につながるのか、そこをきちんと考えた上で次のステップに進むべきです。ただ植林をするだけで価値につながるとは限りません。お金の無駄遣いかもしれませんので。

■質問:
 
ピーダーセンさんが大義を理解しているかということを掲げられましたし、加藤さんはグローバリゼーションの中で、企業の果さなければならない役割があるとお話されました。今後、企業は、次世代に対する責任とか社会性とか道徳とか倫理とか社会性を持たなくてはいけないのではないかと思うのですが?

■ピーダーセン:
 
まったく同感です。ただし、本来は倫理観を持つべきですが、今の経済システムでは、必ずしも倫理観を前面に出すことを促していません。その中でやっていかなくてはいけないという難しさがあります。

 
法令順守とコンプライアンスはすべての部署に必要なものですので、徹底的に行うべきですが、新しいビジネスの創出の部分は、できる人からどんどんやっていくという性質のものだと思います。

■加藤:
 
IT業界では、IoT、クリーンテック、ウエアラブルデバイスなどのキーワードが出てきています。たとえばウエアラブルデバイスではヘルス ケア領域への活用が注目されています。今までは豊かさ、IoTはエネルギー効率化の観点から多くのソリューションを期待されています。
 今までは豊かさを促すためのテクノロジーが多かったですが、社会をよくするためのテクノロジーに、変化してきているのではないかと思います。

■西村:
 
できる人からやるという意見に共感しました。アイデアのある人から募ること、やりたいという人から募るということが大事なので、それらの意見をいかに集められるかが我々CSR担当の役割だと思いました。

今回のセミナーを終えて

 CSRに取り組む目的を明確化することは実は難しい。多くのCSRに関する取り組みは直接的にはコストとなることが多い。そのため、一般社員から見るとムダ遣いと映ることもある。
 しかし、コンプライアンス面などで一度問題が起きると逆に大きな損失が発生する可能性もある。こうしたリスク面からのCSRはピーダーセン氏の言う「ゼロ線」以下の活動として必要だ。

 ただ、これだけではどう考えても後ろ向きだ。さらにCSR活動をどのように企業価値や競争力に結びつけていくか。ヒントとなるのが「大儀」を大切にした企業活動かもしれない。東洋経済もCSRの目的は「信頼される会社」になるためとしている。

 ステークホルダーに対して堂々と自社を誇れる企業になるためにCSR活動は必要なのだろう。その際にどのように取り組んでいくべきかの示唆も今回のセミナーで得られたと思う。

※次回のセミナーは9月17日に開催します。
 お申し込みは下記画像をクリックしてください。
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■参考資料

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