MPTフォーラム

確率的な金利変動と最適アセットアロケーション

(財)年金総合研究センター 小倉 誠
一橋大学大学院国際企業戦略研究科 本多俊毅

[要約]

投資機会が変動する場合には多期間モデルの最適ポートフォリオと,一期間モデルの最適ポートフォリオは一般には一致しない.現在の日本の金利水準を考えると,投資機会の変動要因としての金利リスクが特に注目されるため,金利変動リスクを考慮した連続時間のアセットアロケーション問題を検討する.最適ポートフォリオは平均分散ポートフォリオと,状態変数の動きに対処するヘッジングポートフォリオの和として表される.本論文ではヘッジングポートフォリオはゼロクーポン債によって表され,その保有比率は投資家の残存期間と危険回避度によって決まる.また,将来給付を考慮するためのひとつのモデルとして,ある一定水準の資産額を越えた部分について効用が定義されるようなケースを考える.最適ポートフォリオは,将来の給付がない場合の最適ポートフォリオと,将来の給付を確保するような債券ポートフォリオを組み合わせることによって得られる.

変額年金保険の評価
―Valuing Variable Annuities―

東京大学大学院経済学研究科 小林孝雄
東京大学経済学部 池田亮一
格付投資情報センター 長谷川 洋一郎

[要約]

この論文では変額年金保険の評価のためのフレームワークを提示する.変額年金保険に投資された資本は,(a)口座の積立金額, (b)何種類かのオプション,(c)投資信託の運用会社に支払われる手数料,および(d)保険会社のマージンに分けられる.最初の二つは保険購入者に対する価値を構成するもので,後の二つは商品供給側の企業に対して支払われるものである.この考え方は,評価計算の正しさをダブルチェックする方法としても便利である.

もっともポピュラーな商品に付加される死亡保障は,異なった満期のヨーロピアン・プットオプションのポートフォリオであることを示すことができる.われわれは、積立金額が幾何ブラウン運動に従うと仮定して,この死亡保障の価値をブラック = ショールズ公式と「死亡率統計」を用いて算出する.また,年金部分に付加される最低保障オプションも,ブラック = ショールズ公式を用いて算出できる.死亡保障の最低保障額がステップアップするタイプのものはルックバック・オプションの一種であるが,このオプションの評価には三項ツリーのアルゴリズムを用いる.

一般的な評価方法を確立したのち,いくつかの典型的な商品を評価する.同時に,(a)〜(d)の各部分の価値が投資対象ファンドのボラティリティー,保険契約者の年齢や積立期間の長さなどに影響される度合いを分析する.

日本における株式新規公開に関する実証分析*

JMR生活総合研究所 山分 佐知子

[要約]

本稿の目的は,日本の新規公開市場の現状を整理し,その価格形成について実証的に分析することである.分析対象は,日本の新興市場として位置づけられる店頭市場に,1995年〜2002年に株式を新規公開した企業713社である.本稿では,欧米の株式新規公開に関する定型化された事実の1つであるアンダープライシングについて,その存在を確認し,それに関する理論仮説を回帰分析によって検証している.本稿の分析結果は,The Winner's Curseが日本のアンダープライシングでも重要な要因であり,特に,起業家(initial owner)の意思決定がその程度に影響を及ぼすことを示唆している.また,引受証券会社の保証効果仮説と投資家の情報顕示理論による部分調整仮説は,日本の現状とは整合的ではない.これは,日本の引受市場の状態や実質上の制約が影響しているためであると考えられる.

*本論文は,大阪大学に提出した修士論文の一部である.論文作成にあたり,論文審査委員の筒井義郎教授,本多佑三教授,谷川寧彦教授から大変丁寧なコメントを頂いた.また,MEW(Monetary Economics Workshop)例会に出席の諸氏,村瀬英彰教授(名古屋市立大学),および本誌レフェリーと編集者の新井富雄氏には多くの有益な助言を頂いた.記して感謝申し上げる.

大規模マクロショック後の流動性回復メカニズム*
―米国同時多発テロ直後の東京証券取引所―

一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程 井坂直人
一橋大学大学院経済学研究科 齊藤 誠

[要約]

米国同時多発テロ直後の2001年9月12日の東京証券取引所では,多くの売り注文が出されて市場流動性が低下するとともに,日経平均株価指数と日経平均先物の間で価格差が大幅に拡大した.本研究では,これらの現象について次のような実証結果を得た.1.テロによるファンダメンタルズの悪化以外にも,特別気配や制限値幅などの制度的要因や,テロ発生時点の信用残高,マーケット・ベータ値,企業規模,レバレッジ比率,株価純資産倍率などの銘柄固有要因が個別銘柄の市場流動性に有意な影響を与えている.2.テロ後には,上述のような制度的要因や銘柄固有要因に左右されにくい先物価格による現物価格の先導傾向が通常よりもいっそう強くなっている.

*本稿を作成するにあたって,第一筆者は科学研究費補助金(特別研究員奨励費),第二筆者は科学研究費補助金(特定領域研究(B)課題番号90173632)ならびに21世紀COE プログラム(現代経済システムの規範的評価と社会的選択)からのサポートを受けている.日経QUICK情報(株)からはテロ前後の取引データを提供して頂いた.本誌エディターの新井富雄氏,匿名レフェリーからは有益なレポートを頂いた.トレーディング・テクノロジー研究会,日本ファイナンス学会,日本経済学会の参加者の方々,特に,磯本直樹氏(東京証券取引所),伊東昌文氏(立花証券),宇野淳教授(中央大学),大村敬一教授(早稲田大学),神山直樹氏(モルガン・スタンレー証券),甲田伸也氏(興銀第一ライフアセットマネジメント),芹田敏夫助教授(青山学院大学),副島豊氏(日本銀行),谷川寧彦助教授(早稲田大学),平木多賀人教授(国際大学)からは貴重なコメントを頂いた.ここに謝辞を申し上げたい.