環境報告書賞 サステナビリティ報告書賞

秋山をね(インテグレックス代表取締役社長)

 今回は、2つの点に注目しました。1つは、経営とCSRが一体化しているかということ。企業の理念・ビジョンが明確で、その実現のための経営計画とCSRが関連づけられ、事業における実践が報告されているかということです。いわば企業の「インテグリティ」の評価です。2つ目は、東日本大震災における支援活動や震災を契機とした長期的事業改革についての報告です。これは、3・11やグローバルな社会的リスクが極大化する中での企業の「イノベーション」の評価です。
 東日本大震災を契機として、社会的存在としての企業のあり方が、以前にも増して重要となっています。より良い社会づくりのために、復興支援はもちろんのこと、気候変動や食糧・資源・エネルギー問題等、社会のサステナビリティを脅かすようなリスクへの対応、課題の解決に企業が果たす役割が期待されています。今回は、そのような課題解決に向けてビジョンを明確にし、行動を始めている企業の報告書が表彰されたように感じます。
 企業と人、企業と企業、企業と社会、それぞれが一体となり、サステナビリティを目指す「一圓融合:イチエンユウゴウ(二宮尊徳)」こそが、これからのCSRであると考えます。

足達英一郎(日本総合研究所理事 ESGリサーチセンター長)

 前回に引き続いて、統合レポーティングを志向する報告書の数が増えているとの印象を受けた。統合レポーティングという体裁をとっていないとしても、各機能領域の企業社会責任を全うしようとする取り組みを網羅するのではなく、事業そのもののなかで社会への好影響を認識し、悪影響があればそれを回避、緩和していく姿勢を報告しようとする傾向は歓迎されてよい。もちろん、悪影響への認識を言及している報告書はまだ少ないが、それでも、審査の対象となった報告書のなかで、日本国内の外国人労働者の労働環境の問題や、海外でのプロジェクト開発で影響を受ける人々の人権問題の事例が示されているものには説得力があった。2010年11月に発行した「組織の社会責任」に関する国際規格ISO26000を取り組み構築や情報開示の手がかりに活用していこうという企業が増えたのも今年の特徴だった。ただ「取り組むにふさわしい課題が何であるかを、企業が特定するプロセス」を丁寧に報告することが、今後の宿題として残されているといえるだろう。

橘高真佐美(弁護士)

 特集として、東日本大震災への対応、事業への影響、今後の事業継続計画の見直しなどについて詳しく記載をしている企業が多かった。事業活動の早期再開に向けた努力や、トップマネジメントの学び、被災地支援の内容などの記事は、大変興味深い内容のものが多く、読み応えがあった。
 未曾有の大災害に関する取り組みの報告は、ガイドラインもなければ前例もない項目であり、企業ごとに危機への対応の仕方やステークホルダーとの係わり方も、報告の方法や視点も大きく異なり、各企業の文化や価値観が表れていたように思う。
 他方、福島第一原子力発電所の事故を契機として、エネルギー問題への関心が高まったにもかかわらず、原子力発電やエネルギーについての考え方等について記載をしたものはほとんどなかった。特に、原子力産業に深くかかわる企業には、今後の情報開示およびステークホルダーとのオープンな対話を期待したい。

上妻義直(上智大学経済学部教授)

 実務の進化は著しく、応募企業の報告書は毎年新たな試みで溢れているように思う。しかし、サステナビリティ報告書は会社案内ではないので、企業内容に関する開示書類として、一定の役割を果たすものでなければならない。報告書の構成や開示内容について、いたずらに新規性を追い求めることなく、地道に守り続けるべきことがあるはずである。たとえば、それはPDCAに対する意識の明確さであり、取り組み結果を示すデータの開示である。重要課題の識別、対応策の立案、目標設定、実行、結果の評価と見直し、次期の目標設定といった一連のマネジメントプロセスがわからない報告書は機能的に十分ではないし、その妥当性を伝えるのは実績データ以外にない。とくに大量の詳細情報をWeb開示する場合は、メインとなる報告書が、単独で完結的に、こうした報告書としての要件を具備している必要がある。その意味で、読者に過大なアクセス負担を強いるような開示媒体の分散化は、やはり是正されなければならない。

國部克彦(神戸大学大学院経営学研究科教授/グリーンリポーティングフォーラム代表)

 サステナビリティ報告に関しては、ISO26000と統合レポーティングへの対応が重要な課題であろう。ISO26000は日本企業にはなじみのない項目も少なくないが、CSRの世界標準として、今後のCSRの方向性を考える上で、参考になるものである。また、統合レポーティングは、アニュアルレポートでのCSR情報の開示をめざすもので、ヨーロッパでは一つの流れを形成している。日本企業の場合は、法定書類のアニュアルレポートでのCSR情報開示は規制の関係で進んでいないが、自主的にアニュアルレポートを発行して、そこにCSR情報を開示する動きも進んでいる。いずれの動向においても、CSR活動の目標と結果を示すKPI(主要業績指標)の設定が鍵になると思われるので、今後はこの方向での展開を期待したい。

後藤敏彦(サステナビリティ日本フォーラム代表理事)

 一次審査を通過した30数点の作品はいずれも優れたもので、筆者独自の基準で採点してみたところ、上位10数点は甲乙つけがたい出来栄えであった。その中で筆者としては下記の点での差に注目した。
 〃弍勅圓僚鏝世任離汽好謄淵咼螢謄への認識度、▲丱螢紂璽船А璽鵑任亮茲蠢箸漾特に従業員以外の人々への人権取り組み、E蟷餡箸世韻任覆マルチステークホルダー対応として、読みやすさ、冊子とウェブの使い分け等、ご超会計、付加価値計算等の工夫、ゲ甬遒茲蠅睫ね荵峺。
 審査員としての持ち票に限りがあるので、筆者が特に推薦しなかった作品も入賞しているが、いずれも先に述べた上位に入っているので異論はない。逆に入賞しなかった作品に少し未練があるくらいである。
 CSRはISO26000の発行以降、全く新しいステージに突入したと考えているが、個別企業の規模、業種、営業地域等に応じてふさわしい方針、取り組みとその報告、等が期待されている。CSR報告書の変革が期待される過渡期にあると考えている。

水尾順一(駿河台大学経済学部教授/日本経営倫理学会常任理事)

 第15回目の審査を終了した。回を重ねるたびに、企業の報告書レベルが向上し、審査の優劣の差が少なくなってきた。今回の特徴はISO26000と対比させながら独自の評価を行う企業や、WEBとの棲み分け、ESG情報を踏まえたアニュアルレポートとの一体化など、企業独自の工夫が見られたことである。
 そのような背景を踏まえながら、今回の審査に当たっては以下の6点を重視した。〜反イ箸靴討猟拘ビジョンや理念をもとにしたCSR活動の先進性や未来性。環境パフォーマンスについてはWEBと冊子版の棲み分けと網羅性、社会性は人権・労働に対する組織の独自性と主体性、ぜ匆颪箸離灰潺絅縫院璽轡腑鵐瓮妊アとしての情報発信力、ッ楼莵弩イ筌哀蹇璽丱CSRなども含めてマルチ・ステークホルダーの参画と配慮、ISO26000との対比や、企業独自のKPIによる時系列の変化なども含めて、他社にはない「独自性」や「個性的特徴」の6項目である。
 今後のサスティナビリティ報告書でもこれらの6点を押さえておきたい。

緑川芳樹(バルディーズ研究会共同議長)

 上位入賞の報告書は、これまでも入賞したことのある報告書の新版になった。これら報告書が際立ってレベルアップされたというよりも、相対的に優れたレポートであると評価されたと思う。これらの報告レベルを凌駕する報告書の発行がなかったといえるが、おしなべて改善すべき課題も多く見られる。
 幸いISO26000規格の発行により、7つの中核主題に沿った改善の方向が示唆されている。2011年版ではこの26000規格に沿った構成を採用している報告書もあるが、その内容の整備は今後の課題である。例えば、日本企業の取り組みの弱い人権に関して、啓発活動にとどまらず、人権委員会の設置や方針・ガイドラインの策定をはじめ、全事業部門にまたがる体制整備が必要であろう。レポーティングではGRIのG3.1対照表の掲載が見られるが、今後26000規格の推奨アクションに対するCSR活動対照表の策定を期待したい(その分量から冊子でなくwebになろうが)。

野津 滋(東洋経済新報社)

  今回の審査で重視した要因は次の4つ、/邑◆⊃雄牾発、▲汽廛薀ぅ船А璽鵑魎泙瓩殖達咤劼亮茲蠢箸漾↓ISO26000への対応、た椋丗弍である。今回は2010年11月に発行された国債規格であるISO26000に実質的に対応したはじめて報告書である。最終審査に残った企業のうち3分の1以上がなんらかの形でISO26000を踏まえた構成となっている。もちろん、これへの対応の有無が報告書の優劣に直接結びつくものではないが、特にグローバル企業ではこの新規格をどんどん取り入れて欲しい。
 ただ、はじめてということもあり、人権などのいくつかの項目ではやや限定的、あるいは具体性に欠ける記載のものが少なくなかった。日本企業にはなじみのないテーマではあるが、今後グローバル展開や海外を通じてのサプライチェーンを構築していく過程では避けて通れない問題だ。欧米企業の報告書などを参考にさらに内容を深めて欲しい。