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河口 真理子 （大和総研経営戦略研究部長／青山学院大学非常勤講師）
今回はじめて審査に参加した。一次審査を経た報告書は大企業に偏らず中小企業ががんばっているな、というのが第一印象。規模の大小によって体裁などには大きな違いがあるが、いずれにしても優れた報告書は、トップのコミットメントが明快で、ビジョンと戦略がはっきりしており、それらが、多分きちんと社員に徹底されているだろう、ということが読み取れるものであった。これから、環境を軸に経済のパラダイムが大きく変化していく中で、従来型のＥＭＳではなく、変化に対応する、あるいは変化を先取りするような環境経営ビジョンと戦略のある企業が増えてきそうな良い予感がする。
末吉 竹二郎 （国連環境計画・金融イニシアチブ特別顧問）
初めて選考過程に参加して − 先ず、受賞の栄誉に輝かれた皆様方にお慶びを申し上げます。私は今回初めて選考委員を仰せつかり、数多くの粒そろいの報告書を同時に比較しながら読んでおりますと、様々な思いにとらわれました。それらの中でも最も印象に残りましたのが、日本における環境問題への取り組みの「思いの深さ」と「実績の濃さ」です。また、報告書としての「表現の巧みさ」も忘れてはなりません。改めて、わが国における環境への取り組みの根付きと深化に目を開かれる思いで一杯でした。
一方で、こんな思いも私の脳裏をかすめたのも確かです。勿論、多くの企業や組織の環境への取り組みの熱意は大いに多とするものではありますが、果たして、日本全体での取り組みや如何となりますと、やや心もとない気がいたします。また、取り組むべき課題にしても、いま世界が直面している安全な水問題、貧困の問題、難民問題、人権問題などなどいずれも環境問題とは表裏一体の問題への取り組みについてはまだまだの感が残ります。
言うまでもなく、世界あっての日本です。健康な世界があっての日本の繁栄です。より多くの日本企業や組織が地球的課題解決への高いビジョンを掲げ、真摯に取り組むことによって、日本を世界のリーダー国の一つに押し上げることになればと切に祈っております。
最後になりましたが、この賞は今回１２回目を迎えました。この１２年間は文字通り日本における環境報告書の創成と発展の時代と重なります。その歴史の陰で新しい流れを引っ張ってこられた東洋経済新報社の皆様方のこれまでのご努力に改めて感謝と尊敬の念を捧げたいと思います。
角田 季美枝 （千葉大学大学院人文社会科学研究科公共研究センター リサーチ･アシスタント／消費生活アドバイザー）
今回の審査で最も悩ましかった点は、環境報告書賞部門で環境報告書として編集されていない報告書などの環境報告と環境報告書として編集された報告書の情報開示をいかに公平に評価するかという点であった。あれこれ悩んだあげく、環境報告書賞部門の審査基準を満たしているかどうか、なかでもトップメッセージにおける情報開示の積極性、目標達成度や自己評価などの記述の具体性に注目することとした。あえていえばリコーグループ以外はどんぐりの背比べである。環境報告書の表彰制度が10年を越えたいまであっても、今後の取組みに関する文章の語尾が「目指します」「取り組みます」「努めます」を連呼するような記述が多いのは、今後の日本企業の環境面での競争優位性からいって不安である。なお、トップメッセージで私がもっとも好感をもった豊田ケミカルエンジニアリングは、残念ながら、今回、僅差で残らなかったが、コンパクトながらトップメッセージと本文の情報開示の質の整合性の取れた良い報告であったことを添えておきたい。
寺西 俊一 （一橋大学大学院経済学研究科教授）
毎回、この審査雑感で述べていることだが、私の理解にもとづけば、「環境報告書」とは、各事業者が「環境面でのアカウンタビリティ」（Environmental Accountability）を対外的に示すための重要な文書である。今回も、私自身は、この観点から、各事業者から提出された「環境報告書」を審査させていただいた。
以前には、環境面での「自己宣伝」ばかりを盛り込んでいるものが少なからず見受けられたが、最近は、そうしたものはほとんどなくなってきた。むしろ、各事業者毎に、それぞれに特色のある事業内容に即して「環境面でのアカウンタビリティ」をデータにもとづいて分かりやすく明示し、非常に読み応えのあるものが増えてきた。このため、いずれを表彰すべきか、優劣をつけるのに大いに苦慮したが、これは、大変、喜ばしいことである。と同時に、これまでの「環境報告書賞」の表彰のあり方について、少し再検討したほうがよい時期にきているのではないかとも思われる。
藤井 良広 （上智大学大学院地球環境学研究科教授）
今回初めて、審査員に加わらせてもらった。審査会の場でも意見を述べたのだが、長年「環境」に取り組んでいる企業の報告書は、それぞれに特色があって甲乙つけがたい点がある。その中から、最優秀賞、優秀賞を選ぶのは、お世辞ではなく、非常に難しい。ある意味、本審査制度の成果として、環境報告書作りの精度が向上したといえる。そう考えると、毎年、限定的に賞を選ぶよりも、一定水準の報告書にはトリプルＡ評価を与えるなどの方式に転換する時期に近づいているのではないか。
もう一つの論点は、環境報告書での情報開示を有価証券報告書とリンクさせる点だ。一部の企業は、有報の注記事項に環境情報を盛り込むところが出始めている。こうした開示の拡大は、環境報告書の信頼度を補強することにもなる。今後の報告書審査でも、こうした関連開示を評価する必要が出てきそうだ。
水口 剛 （高崎経済大学経済学部教授）
今回も一次審査から関わり、多くの環境報告書を読んだ。経営トップの緒言から始まり、環境負荷の全体像や環境への代表的な取組み、CO2排出量等の経年推移などのデータを示すという「型」はある程度定着してきた。その中で光るのは、やはりトップの強いコミットメントや、会社としての明確なビジョンを示した報告書である。生産現場での環境負荷の毎年数パーセント削減という地道な目標を立て、きちんと負荷のデータを集計するということは、環境経営の出発点として重要だが、いまやそれだけでは他社と差別化できない時代になった。自社の製品やサービスを通していかに持続可能な社会の構築に貢献するかが問われる時代である。それは、実際にやっている企業でないと書けない。報告書の評価と実態の評価が近づいてきたわけである。また、自社の製品を通して、顧客の環境負荷削減をサポートするコンサルティング型の取組みも目立ち始めた。今後は、その成果をいかに「見える化」するかが報告書としての課題であろう。
水野 建樹 （未踏科学技術協会研究主幹）
12年前にこの賞が設けられた頃と比べて、現在ではガイドラインが整備されたことにより、多くの報告書はコミュニケーションツールとして一定の水準に達しているだけでなく、環境報告書を発行する企業や組織の数も増えています。その間、環境問題に関するステークホルダーの意識がより高まっていることもあって、報告書に求められる条件が初期の頃に比べて一段と高くなってきたように思います。そのような高いレベルの内容は、今回表彰された報告書から読み取ることができます。僅差で選からもれた報告書は多いのですが、今後さらに工夫していただき、読者を感嘆させるような第二世代の環境報告書を作成されることを期待しています。
公共部門からの応募が最近増えているのも特徴的です。公共部門は社会的使命がはっきりしていますから、本来の使命と環境との関わりについてマイナスの側面も含めて分析し、将来の方向性についても記述していただくと社会的にも有意義なものになると思いました。
川島 睦保 （東洋経済新報社）
例年のことですが、次の４つの基準から審査させていただきました。�＾貳未凌諭垢砲箸辰栃�かりやすい誌面となっているか、�▲如璽燭粒�示がしっかりしているか、��PDCAの記述など年次報告的なスタイルになっているか、�ぅ好董璽�ホルダーとの対話ツールとして活用されているか、です。最終審査に残った企業はいずれもこうした基本的な部分がしっかりできあがっており、ここに来て環境報告書の一つのスタイルが確立されてきたなという印象を強くした次第です。２年連続で最優秀賞を受賞したリコーグループは、毎年“進化”した内容の報告書で応募いただくことで有名な企業ですが、今年も皆の期待を裏切ることはありませんでした。環境問題へのしっかりした理念、CO2削減へ向けた真摯な取り組み、中国における環境対応などの記述はとても興味深く読ませていただきました。特にライフサイクル全体を通した製品の環境負荷削減目標を設定し、PDCAサイクルを回そうとしている点も先進的な対応として高く評価されると思います。 |
