《不確実性の経済学入門》地震予知は当たらない?(2) - 08/09/10 | 12:30 |
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地震の発生はベキ分布 決定則は存在しない
99年、英国の科学誌『nature』は、「地震予知は可能か」を主題にウェブ上で公開討論会を行った。7週間の議論を経て、たどり着いた結論は「地震予知は実際に役立つ形では、ほぼ不可能」というものだった。
そもそも本当に大地震の予兆などが特定できるのだろうか。そうした根本的な疑問を呈する地震学者は少なくない。というのも、マグニチュードと地震発生数との間に「グーテンベルク=リヒターの法則」と呼ぶ関係式が存在しているからだ。
米カリフォルニア工科大学の地震学者、ビーノ・グーテンベルクとチャールズ・リヒターが世界中の地震を調べた結果、マグニチュードが1大きくなると地震発生数は10分の1になり、2大きくなると100分の1に減る関係が発見された。
このように、片方につれてもう片方が指数的に減る場合、「ベキ分布」に従っていると言うが、「グーテンベルク=リヒターの法則」は地震発生回数とマグニチュードとの間にもこのベキ分布が成り立つことを意味している。上の図は日本の地震の規模と発生を示すデータだが、両者を対数のグラフに直すと直線的な関係が成り立つことが特徴だ。
両者がベキ分布に従っていることは地震予知に対し極めて重要な結論を導く。ベキ分布の法則は岩を砕いたときの破片の大きさの分布にも見られる。割れた岩はいくつかの大きな破片と無数の小さな破片に分解される。しかし、その無数の小さな破片を拡大すると、やはり数個の大きな破片と無数の小さな破片に分けられる特徴がある。言い換えれば、大きい破片と小さい破片の違いは拡大縮小の違いであり、両者を分け隔てる物理的メカニズムは存在しない。
この性質をベキ分布の「スケール不変性(フラクタル性)」というが、予知否定派の研究者たちは地震の場合にもこれが当てはまると主張する。大きな地震と小さな地震との間に特徴的な違いはなく、大地震の兆候といった特別な要因も存在しないというのだ。
そうだとすれば、長きにわたって大地震の前兆を観測し続けてきた日本の行動は、税金のムダだということになる。
それだけではない。正確な予知ができないにもかかわらず、地震予知研究を続けた場合、経済学的インセンティブの観点からは「本来なら防げるはずの地震被害を深刻化させるおそれがある」との指摘がある。
耐震補強や非常持ち出し品の備蓄など、防災対策は災害が起きた状態でのみ役立ち、それ以外の状態ではまったく無用な代物だ。この場合、個人や企業の自然な行動として、できるかぎり実際に役立つのかどうか見通しがついてから防災対策を実行しようとする。将来の「不確実性」が解消されるまで、防災投資を遅らせるインセンティブを持つ。
公的な地震予知研究は人々にこの「不確実性」の解消を期待させ、自発的な防災投資を引き伸ばしてしまう可能性をはらんでいる。
「自然災害にはあらゆる対策の選択肢があってもよい。地震予知も単にその一つ」と気象庁は説明する。しかし、海外と比べ特異的な日本の地震予知研究に批判の声が強まっていることも確か。多額の税金を投じて地震予知を続ける必要性があるのか、再考すべき時期だろう。

(週刊東洋経済)
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