制作:東洋経済広告企画制作部

グローバル経営戦略フォーラム クロスボーダーM&Aと買収後経営

協賛企業講演III

海外での企業買収と国際法務戦略

海外企業買収に付きものの法的リスク。特に、新興国企業相手では思わぬ痛手を被ることもある。
クロスボーダーM&Aを中心に、国際法務に豊富な経験を持つ長島・大野・常松法律事務所の弁護士、藤縄憲一氏が実際にあったトラブルを基に再構成した四つの事例を紹介。
M&Aのリスクを回避するポイントを解説した。

先行する合弁事業を足かせにしない

弁護士 藤縄 憲一

 インド経済への関心がそれほど高くはなかった20数年前、ある日本のメーカーが地元資本と提携して、現地に合弁企業を設立した。その後、インド経済の急成長が始まり、そのメーカーは現地に100%出資子会社の設立を計画する。だが、昔の合弁事業契約に盛り込まれていた競業禁止規定で、日印双方の親会社は、合弁企業と競合できない契約だったため、単独子会社設立はスタートからつまずいた。

 当時、日本側が競業禁止規定を受け入れた背景は、インドには合弁の相手先が了承しなければ同業種への投資は基本的に認められないという国の外資規制がすでにあり、契約に入れても大した違いはないという判断もあったようだ。藤縄氏は「国の規制には抜け道もあり、規制自体が廃止される可能性もある。変化が激しい新興国で、無期限の競業禁止合意はすべきでない。交渉上妥協が必要なら、別に合弁事業解消の方法を盛り込むなど工夫すべき」と語る。

 2番目の事例は、商標をめぐるトラブルだ。約10年前に、タイに合弁で進出した日本の食品メーカーは現地資本側に商標登録を依頼。登録後、日本側へ移転されるはずだった商標権は合弁企業に移転され、そのままになっていた。この合弁事業が低迷したことから、日本側は別の現地資本と新規合弁事業の計画を始めると、この商標の問題が浮上した。

 日本側が株式の過半数を握っていたが、契約には「重要資産(知的財産権を含む)の処分は3分の2の賛成が必要」という条項があり、新規事業計画は暗礁に乗り上げたのだ。藤縄氏は「現地側も弁護士らの知恵を使っている。過半数を握っていても、知的財産の権利確保や管理などを現地側に委ねるのは危険」と、注意を喚起した。

リスクを正確に見極めしっかりした管理を

 3番目の事例はリスク管理に関する教訓だ。ある中堅商社は、日本のメッキ業の会社と共同でインドネシアのメッキ会社買収を計画した。投資額はM&Aとしては小規模な1億5000万円程度。だが、メッキ工場は有害物質を使用し、不適切な管理下では環境面のリスクが高い。そこに気づいた商社は、共同出資する予定だった日本のメッキ会社に買収資金を貸し付ける形で直接投資を避けた。

 藤縄氏は「投資金額とリスクの大きさは必ずしも比例しない。環境問題が起きれば、対応コストは1億5000万円では済まない可能性が高い。投資額が小さくても、リスク管理にコストをかけるべきケースもある」と指摘する。

 4番目は、アジアのメーカーを買収した、ある日本企業の話だ。買収前の業績は好調だったが、直後に製品の主要輸出先だった米国の当局から輸入許可を取り消され、売り上げの半分を失ってしまった。米国の法律事務所が作成した分厚いデューデリジェンスレポートは、輸入許可取消のリスクについて指摘していたが、その情報が社内で真剣に検討されることはなかった。藤縄氏は「立派なレポートを受け取って、そこで満足してはいけない。社内できちんと理解し処理できる体制がなければ、こうしたことが起きる」と警告する。