一橋ビジネスレビュー創刊10周年記念フォーラムリポート『揺るぎない日本の未来』

グローバル戦略の要諦〜技術経営と人材育成

東洋経済新報社が発行する一橋大学イノベーション研究センター編の経営誌『一橋ビジネスレビュー』が創刊10周年を迎えた。 日本発の理論的・実証的経営研究の発信を目的として、これまで日本のマネジメントを多角的に分析し、学界にとどまらずビジネス界に一石を投じてきた。その意義と10年の節目を記念し、 日本の将来を考察するフォーラムが2010年11月25日、一橋記念講堂(東京都千代田区)で開催された。
主催:一橋大学イノベーション研究センター/東洋経済新報社
特別協賛:サイコム・ブレインズ
協力:カラーズ・ビジネス・カレッジ
制作・東洋経済広告企画制作部
視野を世界に 技術と人材が日本の強み
日産自動車 代表取締役 最高執行責任者 志賀俊之氏

 「揺ぎない日本の未来」をテーマにしたフォーラムは、先進的な企業トップによる講演、世界に誇る日本のロボット技術動向、さらに技術経営と人材育成の重要性を語るパネルディスカッションが行われた。

 最初に登壇した『一橋ビジネスレビュー』の編集委員長で一橋大学イノベーション研究センター長を務める米倉誠一郎・教授は、ガラパゴス化へ向かう日本企業の現状を説明。もっと世界に目を向け米国のIT先端企業に備わる「揺るぎない未来」を日本も真剣に考える時期と指摘。日本企業は再び世界を目指すべきであり「最先端の技術開発とグローバルな視点をもつ経営にこそ揺るぎない未来がある」と強調した。

 

3次元事業展開に強みをみせる東レ

日産自動車 代表取締役 最高執行責任者 志賀俊之氏

 特別講演Ⅰは、東レ代表取締役社長の日覺昭廣氏が「東レの経営戦略」を語った。冒頭、同社の事業概要に触れ、祖業の繊維で培った技術を基盤に炭素繊維複合材料などを戦略的に拡大、水処理膜など環境分野を戦略的育成事業として次の収益拡大の柱とする方針を説明した。

 繊維分野は「中国の生産力が圧倒的だが、世界的に見れば人口増による需要増で成長産業」との認識を解説。厳しい状況下でも「繊維事業は継続的に安定的な収益を維持する」と強調した。その戦略は、技術開発力とサプライチェーン対応力、グローバルな展開力の独自の3次元事業構造にあるとし、ユニクロとの提携など、つねに新たなビジネスモデルを創り出せるのが強みとした。

 また、グローバルな事業運営に対応する人材、研究・技術力の確保を目標として人材育成に力を入れていることなどを語った。

 

世界で存在感ある企業を目指すテルモ

日産自動車 代表取締役 最高執行責任者 志賀俊之氏

 続く特別講演Ⅱでは、体温計製造から創業し89年を経たテルモ代表取締役社長の新宅祐太郎氏が登壇。持続的な成長を遂げる戦略はグローバル化への対応であり、そのためにも世界で存在感を示せる規模を持つことが重要との考えを示すとともに、「売上高を1兆円規模に拡大させ世界に冠たる企業になる」との方針を強調した。開発費と期間が長い医療機器分野で開発を途切れなく続けるためにも一定の規模が必要とした。

 これまでの買収による技術・事業拡大に加え「中国、インド、ブラジルなど新興国を本格開拓し、低侵襲治療に対応する機器開発などイノベーションを欠かさない」方針で、日本の優れた匠の技術を取り入れた日本発のイノベーションをもって世界に打って出る考えを語った。

 

革新的な技術開発は産学官民の連携が必要

日産自動車 代表取締役 最高執行責任者 志賀俊之氏

 特別講演Ⅲは、自立動作支援ロボット・HAL®の開発者、筑波大学大学院システム情報工学研究科の山海嘉之教授が、福祉分野で活躍するHAL®を紹介。「革新的な技術は、生まれにくく、育ちにくく、生きにくい3重苦を克服するのが大変」と開発段階から実用化までの過程を説明し、「新産業創出と人材育成には、ユーザーとしての民を入れた産学官民の連携体制を整える必要がある」との考えを示した。特に新しい技術には社会的ガイドラインがなく、この対応に追われることで技術が育たなくなるケースが多い現状を変えていく必要性を訴えた。

 講演に続き、山海教授と米倉教授との対談が行われ、日本を牽引するロボット技術について、熱く言葉を交わした。

日産自動車 代表取締役 最高執行責任者 志賀俊之氏