創立115周年 特別広告企画 プロフェッショナルに訊く 経済・社会・個人の新たなる視点

品川女子学院 校長 漆紫穂子さんに訊く
VOC

聞く前に、まず、伝えることが大事です

 仕事が軌道に乗り始め、一方では結婚や出産が視野に入ってくる28歳になった時、仕事とプライベートのバランスをとりながら、その両面で輝いていられる女性を育てたい。未来の姿から逆算し、18歳までの6年間に何が必要かを考えてカリキュラムを組み立てていく「28プロジェクト」という教育方針が、保護者の方々や子どもたちに深く伝わっているようです。偏差値や進学実績といった数値ではなく、教育方針と校風といった形があるようでないものが志望理由のトップに上がってくることが品川女子学院の特徴の一つとなっています。

 教育方針が伝わるまでには三つの段階があると考えています。まず、私たちが育てたい人材像を明確にし、そのためにやることと、やらないことを伝える。次に、学内のすべてをその教育方針と一致させ、言っていることと実際に行っていることのズレをなくす。そして、その教育内容を校則から財務にいたるまですべてオープンにする。こうした段階を経ることで、生徒と卒業生、その親御さん、教職員が作る組織文化、つまり校風までもが口コミで浸透していくのではないかと思います。

 すべての人が満足する学校はありません。ですから、学校選びは、他人の評判がいい、悪い、ではなく、うちの子に合う、合わない、の判断が最も重要なポイントになるのです。理念や組織文化が伝わることで、家庭と学校が価値観を共有できるかどうかがはっきりとします。親子で品川女子学院の目指すものに共感し、自ら選んで入学してきた生徒たちは、学校が好きで、学校に誇りを持っています。そこに顧客という意識は感じられません。「私たちの学校」のため、主体者として改善や改革に参加する姿があります。

 価値観を共有していれば、方法論の違いは歩み寄ることができます。「顧客」対「組織」という壁のない信頼関係が築ければ、「ここをよくしたい」という本気の意見を聞くこともできます。そうして、建設的な意見が積みあがり、改善、改革が進んでいきます。選ばれないことも覚悟して、まず、「伝えるべきことを伝える」こと。

 「伝える」コミュニケーションが「内側の顧客」を生み、本気の意見を「聞く」コミュニケーションが組織をよりよくしていく。この二つのコミュニケーションが大きな価値を生むと感じています。

VOC
ヴォイス・オブ・カスタマー(Voice Of Customer)の略称。顧客の声を収集し、分析を加えて商品開発や経営に生かすための仕組み。消費者をはじめステークホルダーからの共感と理解とを獲得しなければ、選ばれる存在にはなりえない。
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漆 紫穂子(うるし・しほこ)
私立中高一貫校の教師を経て1989年に品川女子学院に。2006年4月より現職。著書『女の子が幸せになる子育て』は7万部を超え、大きな共感を得ている