制作:東洋経済広告局企画制作部

特許・知的財産戦略
ベストパートナーズガイド

知財戦略で時代の勝者になるために
「知識社会では、知的財産が決定的に重要な役割を果たすこととなる」。
こう語るのは、元特許庁長官、そして内閣官房・知的財産戦略推進事務局長という要職から、
日本の知財戦略をドライブさせてきた荒井寿光氏。
「今回の不況を抜け出たとき、あらゆる場面でまったく新しい風景が見えてくるはず」と、
知的財産戦略の重要性を説く日本のエバンジェリストへのインタビューは文明論から始まった。
――知の大競争時代が始まったと指摘されています。
荒井 人類の歴史を紐解くと、肥沃な土地に四大文明がはぐくまれたように農耕社会では豊かな農地が人々の生活を潤し、1760年の産業革命以降はよい機械を持っている者が富を蓄えました。200年あまり続いた工業社会はコンピュータの爆発的な普及とIT革命によって知識社会に移行しつつあります。そこでは、知的財産が決定的に重要な役割を果たすこととなる。優れた知的財産を生み出して上手に使う者が時代の勝者となります。今回の金融危機にしても、知識社会への移行時に起こるべくして起きたトラブルだと言えるでしょう。

――どういうことでしょう。
荒井 すさまじいスピードで進化する金融セクターの知識化に、社会的な制御の仕組みが追いつかなかった。利用するサイドが成熟していなかったと言えます。しかし、誰も知識化への大きな流れを止めることはできません。全治3年とも言われている今回の不況を抜け出たとき、あらゆる場面でまったく新しい風景が見えてくるはずです。

知的財産は知識社会のパスポート

――競争のフィールドとルールが変わると。
荒井 ルールは変わる、そしてルールを変える、といった戦略を持つことが重要です。たとえば、電気自動車を見てください。外観はこれまでの自動車と変わりありませんが、中身は知的財産の塊ですし、モノづくりの手法もこれまでとは明らかに違う。さまざまなプレーヤーと協働しながら、電気の供給方法をはじめとする社会システム全体を巻き込んだ壮大なプロジェクトとなる。すると、どうなるか。もはや電気自動車単体の販売競争にとどまらず、電気自動車を軸としたシステムそのものの国際競争が始まります。どのグループが事実上の国際標準を勝ち取るのか。技術とシステムをめぐる壮絶な覇権争いが始まることでしょう。しかし、魅力的な知的財産を持っていない企業は競争の場にエントリーできない。オープンイノベーションのメンバーになることさえも許されません。知的財産は知識社会のパスポートであり、これを手に入れるために勇気を持ってブレークスルーに挑戦する気概を持ち続けていかなくてはなりません。

――企業内における知的財産セクションのポジションも際立ってきますね。
荒井 経営者の方々には、知的財産を三つのカテゴリーに分けて考えていただきたい。まず、本当に大事な知的財産は完全にブラックボックス化して守っていただきたい。次に、すぐに誰かが追いついてきそうな技術については特許で固める。第3に、半導体の歩留まりをよくするといったノウハウに関しては特許を取っても真似をされるだけですから特許申請をして情報公開をするようなことはしない。こうした判断は企業の経営戦略そのものと重なり合います。将来に対する布石をどこに置くのか。経営者の傍らで大局観を共有できるような知財人材の育成が急務です。

中小企業の知財戦略を支える社会的なインフラ

――専門家の育成をはじめ、知財立国への地歩を固めつつあります。
荒井 02年12月に知的財産基本法を制定して以来、約50本の法律が制定されたり改正されました。行政府では内閣総理大臣を本部長に全閣僚と10人の民間人からなる知的財産戦略本部を発足。司法では知財高等裁判所が創設されましたし、経団連や大学にも相次いで知財の司令部ができました。日本全体に知財ネットワークが構築され、これまでにないスピードで充実していますが、まだまだ解決すべき課題も少なくありません。

――と、いいますと。
荒井 国際的なソフトなインフラである特許制度は、世界中の人々の生活を便利にそして豊かにする、文明の進歩に貢献する人類共通の財産と言えます。第1に画期的な技術の恩恵を世界中の人々が受けることができるように世界特許の仕組みづくりを急がなくてはなりません。各国の制度が異なる現在は、デコボコしたインフラとなっており、フェアな競争の土壌とは言い難い。2番目がニセモノ防止条約。被害の規模も大きく、WTOの縛りだけでは不十分です。第3に特許の世界裁判所創設が望まれます。各国でバラバラの特許裁判を調和する必要がある。経営者層の方々には、国際的な業界団体や国際会議などの場でソフトなインフラづくりを積極的に推進してほしい。知識社会における新しい枠組みやコンセンサスを作る場でイニシアチブを握る気構えを持っていただきたい。ルールは与えられるものではなく、自ら作るものですから。

――一方、中小企業はいかに知的財産経営に立ち向かうべきなのでしょうか。
荒井 勤勉でよりよいモノをより安く、という得意技だけでは中国にそのお株を奪われてしまいます。中小企業にとっても、今の不況の冬の次にくる春は、今までの春とは明らかに違う。やはり、知的財産で武装していかなくてはならない。もちろん、すべてを自前でやる必要はありません。法人化した国立大学をはじめ、地域貢献を意識しはじめた大学の知的サービスは格段によくなりました。独立行政法人となった国立の研究所群や地方自治体が持つ工業試験所も相談相手になってくれます。豊富な知見、最先端の計測機器などを持つ第3者機関が理論武装なりデータ武装に力を貸すことで、中小企業を今までとは異なるステージに引き上げることを可能にします。中小企業がいかに知識社会への対応力を身に付けていくのか。日本にとっての大きなチャレンジが始まります。
荒井寿光
荒井寿光
Arai Hisamitsu
東京中小企業投資育成代表取締役社長
1966年東京大学法学部卒業、73年米国ハーバード大学大学院修了。66年通商産業省(現経済産業省)入省後、通商政策局国際経済部長、資源エネルギー庁公益事業部長、機械情報産業局次長、防衛庁装備局長、特許庁長官、通商産業審議官を歴任。
独立行政法人日本貿易保険理事長、内閣官房・知的財産戦略推進事務局長を経て現職。知財関連の著作も多い。
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