制作*東洋経済広告局企画制作部
市場競争力を強化させる
M&A戦略
「日本のマーケット・フォー・コーポレート・コントロール(経営支配権市場)が変わりつつあるのでしょうか」。本特集でご登場いただいた、早稲田大学商学学術院の宮島英昭教授がインタビューを締めくくった言葉だ。日本経済史やコーポレートガバナンスにも詳しい宮島教授に、これまでの日本のM&A市場の歩みや現在におけるM&Aの意義などの話をうかがっていると、日本固有の企業風土や人的管理といった側面も浮かび上がってきた。そして、M&A市場の最前線に立つパートナー企業各社からは、生のリポートをお届けする。

これまでのM&A市場の変化と特徴
2009年第1四半期における世界のM&A市場の規模は、約4720億ドル。前期比29.3%の減少、04年第3四半期以来の低水準となりました。その要因は一つとして、サブプライムローン問題に端を発する世界同時不況が挙げられます。LBO(レバレッジド・バイアウト 買収先の資産やキャッシュフローを担保に資金を調達し買収を行う手法)が停滞し、フィナンシャルバイヤー(投資目的)の案件が縮小したと思われます。
世界全体でこれまでのM&Aの歴史を振り返ると、五つのブームがあったと考えられます。第1次は1890年代、第2次は1920年代、第3次は1960年代、第4次は1980年代、第5次は1990年代後半以降。現在の状況をこの流れのなかで捉えると、90年代後半からの第5の波が終息したところだといえるでしょう。いつの時代もM&Aブームは株式投資ブームと並行していました。その点でみると、現在のM&A市場の落ち着きは、ほぼリーズナブルであると考えることもできます。
日本にフォーカスしますと、日本のM&Aブームは90年代末から始まりました。当初は、国際競争の激化などを背景に、金融機関など大型合併や持株会社を利用した統合案件が多いのが特徴でした。2000年代に入ると、IT関連企業による成長戦略の一環としての積極的なM&Aのほか、企業間の買収提案や大型TOB(株式公開買い付け)も増加しました。
90年代末からのM&Aブームは、日本企業の組織形態を大きく変化させたと考えています。その一つが、経営資源の適正配分を目指した持株会社化の進展です。
97年の独占禁止法改正、99年の株式移転制度の導入などにより、日本でも持株会社が解禁され、その導入が加速しました。これがM&Aに対する促進要因となりました。M&Aにおける持株会社化のメリットは少なくありません。売買手続きを軽減したり管理部門の合理化を可能とし、M&Aの敷居を引き下げることができます。またターゲット企業にとっても、持株会社制のもとでは複数の企業を兄弟会社として傘下に置くことができ、買収企業の従属感が薄くなり、M&Aを受容しやすい。企業の自律性を確保できるため、日本の企業風土になじむのでしょう。持株会社制度は、日本のM&Aを発展させたといっていいと思います。
08年以降は、日本のM&A市場規模は減少傾向にありますが、ただしそれでも、04年の水準よりは高く、98年以前の水準と比べるとはるかに高くなっています。
成長戦略を実現するためにM&Aを利用する企業が増加
現在の日本のM&A市場をIN、OUTの特徴でみると、国内企業同士のIN−IN型のM&Aは、ほぼ一巡したといえるでしょう。また、2000年代前半において特徴的だった海外企業による日本企業の買収、すなわちOUT−IN型のM&Aも減少傾向にあります。しかし一方、IN−OUT型の案件は堅調に増加しています。国内市場では多くの産業が成熟期に差しかかっていることで、海外進出に成長の活路を見いだそうとすることに加え、昨今の円高傾向によって割安感が生まれたためだと考えられます。
M&Aの意義を大きくわけると、大胆な事業再構築などを含む「事業再組織化型」か、アジアなど海外市場への展開や技術・ノウハウの取得などを目指した「成長型」のどちらかになると考えています。近年、日本でもM&Aを成長戦略の一部として位置づける後者が見受けられるようになりました。フィナンシャルバイヤーによる案件が減少する一方、ストラテジックバイヤー(事業主体)による案件が増加しているのも、それを示しているといえます。前者のタイプのケースも成熟産業において増えています。昨今では、世界経済危機の影響により、いくつかの産業部門で需要水準が一段と低下していることから、事業再編の必要性が高まっていると思われます。
M&Aは創造的破壊のツールである
こうした現状を考えると、今後もM&Aが日本企業にとって、創造的に経営を改革し発展させる契機、いわば創造的破壊の重要なツールになることは間違いないと私は考えています。ただし、M&Aは打ち出の小槌ではありません。たとえば、競争力の源泉となるようなコア技術を自社で開発する傾向が高い企業にとっては、「時間を買う」という意味でのM&Aの効果は限界があります。
M&Aを成功させるポイントは、(1)権限の配分(2)事業・業務プロセスの移転(3)インセンティブなども含む人的管理、の三つを円滑に進めることでしょう。特に、(3)では、企業グループの分権化・集権化を進め、ターゲット企業の従業員の同意を得ることが大きなカギになります。そして、この統合に伴うコストを可能な限り引き下げ、シナジー効果をどのように生み出せるかが重要です。見方を変えれば、地に足のついたM&Aしか成功できないともいえます。世界の他の先進国と比べると、日本のM&A市場はまだ今後伸びる余地が大きい。法制面やパートナー企業などさまざまなインフラ、環境が整ってきたからこそ、これからの日本のM&A市場は堅調に推移していくと考えています。
宮島英昭 (みやじま・ひであき)
早稲田大学商学学術院教授・高等研究所副所長
立教大学経済学部卒。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了、早稲田大学商学博士。
研究テーマは日本経済論、日本経済史研究、企業金融、コーポレートガバナンス。著書多数。
立教大学経済学部卒。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了、早稲田大学商学博士。
研究テーマは日本経済論、日本経済史研究、企業金融、コーポレートガバナンス。著書多数。
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