第0回「経営に価値を生むIT」慶應義塾大学総合政策学部 國領二郎教授第1回「人材マネジメント」一橋大学大学院商学研究科 守島基博教授第2回「顧客主義とCRM」東京大学大学院経済学研究科 阿部誠教授第3回「戦略的経営管理」
オラクルスポンサード企画 「今、目の前にある企業経営のうねりとIT」

第3回「戦略的経営管理〜ビジョンを戦略を通して実現するナビゲーション経営とは〜」

 J-SOX法やリスクマネジメントへの対策が急がれる昨今、「経営の可視化」「見える化」など、企業経営には新たな経営手法が求められている。実際にどのようなものなのか、新たな取り組みとして注目を集めるバランス・スコアカードの第一人者、吉川武男・横浜国立大学名誉教授に聞いた。

企業価値評価の指標としても注目される「戦略の実現」

 1970〜80年代、米国の経済は大きな変化を遂げました。当時の米国では、供給が需要を上回り、顧客も他と違ったものを求めるようになるなど、「大量生産がものを言う時代」が過ぎたのです。従って、米国企業には、国境を越えたグローバル経営が要求されるように成りました。

 「大量生産がものを言う時代」という、スケール・メリットが必ずしも生かせなくなった米国経済では、過去の延長線上に未来を期待する事が不可能となりました。つまり、新たなビジョンを戦略を通して実現する「戦略経営時代」となったのです。

 ここで注目すべき事は、これらが現在の日本企業を取り巻く経営環境に酷似している点です。さらに最近の米国では、株主の企業評価において、決算などの財務データのみならず、「戦略の実現」が重要視されるようになりました。米国企業にとって、「戦略の実現」は企業価値を高める新たな指標なのです。

「ビジョンを戦略を通して実現する」ナビゲーション経営

 当時の米国企業が採用していた業績評価システムは、戦略経営時代には不十分でした。財務的業績評価指標に重点を置くあまり、長期的視点から必要不可欠な社員教育や投資等をないがしろにしてしまったのです。言うなれば、当座の財務的パフォーマンス(業績)を取り繕う過程で将来を抵当に入れてしまうシステムだったのです。

 私が提唱しているバランス・スコアカード(以下、BSC)は、単なる業績評価システムではなく、企業の「ビジョンを戦略を通して実現する」プロセスを「財務」「顧客」「業務プロセス」「人材と変革」等の視点から測定・評価する、戦略志向のナビゲーション経営システムです。

 BSCは、ビジョンや戦略を経営トップのみならず全従業員や社員と共有するコミュニケーション機能を持ち、日々の業務に落とし込みます。さらに、BSCを通じてPDCA(Plan-Do-Check-Action)の各プロセスを常にチェックすることで、「戦略の実現」を確実にできるのです。

 このように、「ビジョンを戦略を通して実現する」プロセスをモニターし、その実現をナビゲート(見える化)することから、飛行機でいうコックピットにも例えられます。BSCは、財務的業績評価指標のみならず非財務的業績評価指標も重視した、戦略経営時代のナビゲーション経営システムなのです。

「経営の可視化」を可能にするIT

 この戦略経営時代のナビゲーション経営システムには、ITの支援が必要不可欠です。ITは、飛行機で言えば感度の良いアンテナのような役割を果たし、企業経営を「可視化」ないし「見える化」し、ビジョンと戦略の設定〜実行〜実現を、経営トップのみならず全従業員や社員と共有するパフォーマンスを可能にします。

 企業経営の「可視化」ないし「見える化」は、企業全体が一丸となって、全員参加の企業経営に向け果敢に挑戦させ、問題発見と問題解決のためのアクションをスピーディに実行し、単なるフィードバックではなくフィードフォワードに基づいたナビゲーション経営を実現するのです。

 また、こうした企業経営の取り組みは、昨今、対応が急がれているJ-SOX法やリスクマネジメントへの対応策としても大変有効です。日本企業は、BSCを上手く活用することにより、真の戦略経営を実現し、これまで以上に存在意義を発揮できると思います。
吉川武男
吉川武男
法政大学大学院教授
横浜国立大学名誉教授
エジンバラ大学客員教授
青山学院大学大学院経営学研究科博士課程修了。米国ウィスコンシン大学大学院経営学部卒業。MS取得。2008年4月より現職。主な著書は『バランス・スコアカード導入ハンドブック』東洋経済新報社(共著)など多数。