第0回「経営に価値を生むIT」慶應義塾大学総合政策学部 國領二郎教授第1回「人材マネジメント」一橋大学大学院商学研究科 守島基博教授第2回「顧客主義とCRM」東京大学大学院経済学研究科 阿部誠教授第3回「戦略的経営管理」
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第2回「顧客主義とCRM〜収集した情報を顧客満足度の向上につなげるためには〜」

 「顧客志向」「経営に生かすマーケティング」などの言葉を聞くことが多い。ITを利用しCRMに取り組んでいる企業も少なくないだろう。しかし、東京大学の阿部誠教授は「現在、日本企業の多くではマーケティングが顧客志向になり得ていない」と話す。その理由や注意すべきポイントはどこにあるのだろうか。

入手した大量のデータを活用しきれていない企業が多い

 顧客の購買履歴をとり、マーケティングに生かそうとする試みは数十年前から行われてきました。例えば、家電量販店やデパート・スーパー、航空会社などの多くが、メンバーカードやポイントカードなどを発行し、一人ひとりの顧客が、いつどこでどのような商品やサービスを購入したかを記録しています。

 いきおい集まるデータの量は膨大なものになりますが、実際にそれをマーケティングに生かすことができている企業は少ないようです。多くの企業では、収集したデータを「ポイント還元」など、顧客の購入金額に応じた値引きにしか利用できていません。値引き競争になると、顧客はより値引率の高い店舗に流れてしまいます。これではデータを活用しきれないばかりか、マイナスにも働きかねません

「顧客」を「個客」と考え、商品やサービスを提供することが大切

 また、大手コンビニエンスストアでは、販売時点情報管理(POS)によるデータに基づき、商品の売れ行きを分析し、売れ筋の商品を並べ、売れない商品を外すといった作業を毎日のように行っています。先進的な取り組みですが、ここでのPOSデータはあくまでも、顧客の平均値に過ぎません。ある店舗で売れ行きのよくない商品であっても、その商品を目当てに来店する顧客もいるでしょう。さらに、ある顧客がついでに別の商品を購入するといった行動も、POSデータだけでは判断ができないのです。

 顧客情報をマーケティングに生かすFSP(Frequent Shoppers Program)を、本当の意味で優良顧客の支持を高める仕組みにするためには、顧客の潜在的な志向をも考慮し、一人ひとりの「個客」が価値を認める最適な提案をしなければなりません。

 欧米の企業では、これらの研究が進み、顧客ごとに内容の異なるダイレクトメールを郵送するといった顧客のロイヤルティ(loyalty)向上を図るアプローチも行われています。日本ではこれら研究が進んでおらず、企業内でこれらの分野に知見のある人材がまだ少ないのが現状です。

顧客の先を見越した提案ができるITへ

 IT化が加速し、CRMセグメントの単位が「個人」へ移り、「モノを大量につくり、どんどん売る」という時代は終わりました。営業やマーケティング、コンタクトセンターなどの顧客と接する部門全体をはじめ、組織的に「顧客」一人ひとりの潜在的なニーズをもとらえたサービスを提供することが求められます。

 この変化に対応するためには、各企業が持つ知識やノウハウに加え、それらを支えるITシステムなども必要でしょう。大量に集まる顧客データをうまく組み合わせ、顧客行動の可視化を図ることで、先を見越した科学的・組織的顧客アプローチが可能となります。

 今後のCRMでは購買情報などを蓄積するだけでなく、情報を分析し顧客のニーズを把握したうえで、今後のサービスに生かしていくことが重要となります。ITの活用についても、「顧客主義」の考え方で顧客の先を見越した提案をするために導入する企業と、そうでない企業とでは大きな差が出るようになるでしょう。
阿部 誠
阿部 誠
東京大学大学院経済学研究科
経済学部教授
マサチューセッツ工科大学電子工学・コンピューター科学学士および修士。同大学オペレーションズ・リサーチ学部博士。Ph.D.取得。主な著書は『超顧客主義:顧客を超える経営者たちに学ぶ』東洋経済新報社(共著)など。