第0回「経営に価値を生むIT」慶應義塾大学総合政策学部 國領二郎教授第1回「人材マネジメント」一橋大学大学院商学研究科 守島基博教授第2回「顧客主義とCRM」東京大学大学院経済学研究科 阿部誠教授第3回「戦略的財務会計」
オラクルスポンサード企画 「今、目の前にある企業経営のうねりとIT」

第1回「人材マネジメントが企業の生命線となる〜現場のパートナーになれる人事部を持つ企業は強い〜」

 企業が競争力を高めようとするとき、人材マネジメントはどうあるべきなのだろうか。また、人材マネジメントを進めるためのツールとしてITを活用する場合にはどのようなポイントがあるのだろうか。企業の戦略達成と人材マネジメントの関係などに詳しい一橋大学大学院商学研究科の守島基博教授に話をうかがった。

企業はリーダーの育成に加え 現場の育成に力を入れるべき

 バブル経済の崩壊から15年以上が経ちました、この間の大きな特徴として、リーダーに対しての「フォロアー」すなわち現場の人材が育っていない点が挙げられます。また、それ以前に、「うちの部署では何年も前から新人が一人も配属されていない」という声を聞くことすらあります。

 日本の企業は現場力が競争力の源泉といわれます。しかし、現場力の中核となる「フォロアー」を育てず、リーダーだけを育成しても、孤軍奮闘して疲弊するだけになってしまいます。逆に、現場の一人ひとりがプロとして力を発揮できる企業は強い。「フォロアー」は正社員とは限りません、アルバイトやパート、契約社員、派遣社員など非正規雇用の従業員も含め、それぞれの考え方を尊重しながら、理念やビジョンを共有するための仕組みづくりが大切になります。

成果主義だけでは成果は生まれない 人材マネジメントのサイクルが不可欠

 成果主義という言葉が一般化して久しくなりますが、その一方で成果主義への改革は大きな問題を残しています。むしろ、今後の変革が重要なのでしょう。

 その要因はどこにあるのでしょうか。一つは、「フォロワー」育成も含めて、全般的な人材育成を怠ったことです。エリートだけを選抜し、リーダー育成をしても会社が動けなければ絵に描いた餅になってしまいます。

 もう一点は、人材マネジメントに「サイクル」という考え方が欠けていたことです。プロジェクトにPDCAサイクルがあるように、人材についても、能力を開発し、チャンスを与え、評価し、それに見合った処遇を与えるというサイクルがなければなりません。成長している欧米の企業の中には、数年から10年という単位で、このサイクルをしっかり回すことも珍しくありません。

日本企業の土台が崩壊の危機にある 現場のパートナーとしての人事が重要に

 バブルの崩壊後、日本の企業に勤める人の多くは、厳しい時代を経験してきました。同僚がリストラされたり、自分の所属する事業部が切り離されて別会社になったとしても我慢し続けてこれたのは、「それで会社がよくなるならば」という、企業や経営者への信頼があったからです。

 しかし、現在は働く人の意欲や信頼関係が揺らいでいるように思えます。ここで回復しなければ、次に日本が危機を迎えたとき、多くの企業は生き残れないのではないかと感じています。人と人との集まりである組織には、長期的な競争力を維持するために、ビジネスから少し離れた立場にある人事が必要なのです。一人ひとりを「サイクル」の視点で育て、チャンスを与え、長いスパンで企業の成長に貢献する。そうやって人材を育成するのが人事の役割なのです。

 今後、その中で人材マネジメントでは情報がカギとなるため、マネジメントシステムをはじめとしたITの力も十分活用すべきです。ただし、やはり人事には属人的な世界における情報力も重要であるため、このIT力と情報力を兼ね備えることが求められます。今後は、現場にも経営者にもパートナーとして頼られる、情報力を持った人事部門のある企業が競争力を高めていくでしょう。
守島基博
守島基博
一橋大学大学院商学研究科教授
慶應義塾大学大学院社会学研究科卒業。イリノイ大学大学院産業労使関係研究所博士課程修了。Ph.D.取得。主な著書は『人材マネジメント入門』(日経文庫)など多数。日本における戦略人事研究の第一人者。