【―加速する新興国市場と日本企業の成長戦略―】競争優位獲得に必要なグローバルレベルのマーケティング・サプライチェーン戦略とモデルの構築

交創をかさね、あらたな道へ XrossFace

基調講演

特別講演 I

特別講演 II

特別講演 III

日本企業にとって高成長を続ける新興国は、従来の生産拠点としてのみならず、製品の販売先としても重要性が増している。だが、有望市場であるがゆえに、欧米・中国・韓国企業もシェア拡大のチャンスを伺っている。マーケットの成熟度や競争環境、文化が異なる新興国で、いかにして熾烈な戦いを勝ち抜くのか。6月22日、グローバル企業のマネジメントに携わる方々とともに、競争優位獲得に欠かせないグローバルレベルでのマーケティング・サプライチェーンとマネジメントオペレーションについて考察するフォーラムが開催された。  制作 東洋経済広告企画制作部

アジアで今後求められるマーケティングコミュニケーション

松島 訓弘|電通基調講演では、電通 執行役員の松島訓弘氏が、まず、マーケット・インの考え方で日系企業が取り組むべき課題を明示し、いつでも、どこからでも、誰にでも、商品・サービスを提供するグローバルマーケティングで勝ち抜く方程式を示した。

その中で、「ほぼ『あらゆるすべての』データが入手可能な時代において、マーケティング・インテリジェンスを統括するCMO(最高マーケティング責任者)の存在と、情報を活用するストラクチャーが重要であり、デジタル普及率が高い新興国では、デジタルがマーケティングの中心になりつつあるが、日本企業の対応は遅れをとっている」と指摘。マーケットを理解し判断できる人材、とくにローカルの優秀な人材を獲得・育成し、責任に見合う対価を払うことが急務とした。また、グローバル企業として知られるネスレ(スイス)の役員構成を一例に挙げ、真のダイバーシティを実践することが、マーケティング・イノベーションを促進すると訴えた。

そして、「マーケティング・インテリジェンス、デジタル・コミュニケーション、優秀な人材。個々の変革はわずかでも、それを掛け算すれば相乗効果で大きなイノベーションを起こすことができる。それをかなりのスピードをもって世の中に先駆けて実践していけば、市場と顧客満足を創造していくことができる」と厳しい時代を勝ち抜く方程式を導き出した。さらに、「各企業が抱える悩みには共通項が多く、それをナレッジとして共有し、皆で協力して対策を講じていくことで、世界の市場で勝ち残っていこう」と締めくくった。

アジアで今後求められるマーケティングコミュニケーション

森山 重雄|ユニ・チャーム特別講演 I は、ユニ・チャーム 常務執行役員、尤じ(=女へんに尼)佳生活用品(中国) 有限公司 副菫事長・副総経理 森山重雄氏が、アジアを中心に競争優位を作り上げた自社の戦略とモデルを紹介した。「1984年の海外初進出からの28年間で学んだことは2つ。10年先を読み、リスクとチャンスに応じて二つの型を使い分けること、そして、国境・階層等の壁を超える5つのポイントである」と論点を整理。市場規模の大きさ、チャネルの発展段階、メーカー間の競争環境という3つの着眼点を時間軸から展望し、「直接進出方式」と「ライセンス方式」を使い分けて地域展開を行い、成長と収益性を最大化させている同社の戦略を披露した。

また、壁を超えるポイントとして、(1)日本で成功した商品を持っていくことから始める(2)不快、不便など“不”の解消型付加価値はどこでも評価を得やすい(3)日本での勝ちパターンの横展開が結局効果的(4)社歴20年超のエース人材を10年スパンで送り込む(5)凡事徹底が非凡を生むと、いう5点を挙げ、リスク要素についても触れた。これらをカバーするのは「共振の経営の実践」とし、同時多発するチャンスをすべてつかみ取るために高次元なサプライチェーンを実現し、それを支えるグローバル人材を量産化することの重要性を説いた。同社ではグローバル人材の6要件を形式知として整理し、世界中の全社員に同じビジョンを浸透させる活動を行っている。「『マッキンゼーの7Sモデル』で知られているが、問題解決の順番は共通価値観と事業戦略から。次いで組織スキル、組織構造、運営システムが固まってくれば、人材、文化の課題も乗り越えられる」と結んだ。

中国における資生堂ブランドマーケティング

太田 正人|資生堂 特別講演 II は、資生堂 中国事業部事業推進部長の太田正人氏が、中国市場でのブランドマーケティング戦略を語った。同社は81年に中国へ進出、現在本社3部門および5つの現地法人と中国研究所という事業体制の下、中国全33行政区で事業を展開、「中国事業は資生堂グループの『成長エンジン』」になっている。

マーケティング戦略は、多様化する顧客ニーズに対し、同社が持つブランドを上手に組み合わせながら、デパート、専門店、薬局、ハイパードラッグ、スーパーといったチャネル配置を適切にとることで、短期間・低コストでリターンの最大化を目指すというもの。各ブランドには―例えば中国発基幹ブランドの「オプレ」であれば、中国におけるデパートのナンバーワンブランドとして、プレステージ価値の向上を目指し、中国女性に愛され続けていく―ミッションを与え、資生堂の成長力とプレゼンスを一層高めることに傾注している。さらに、11年には「ピュアマイルド ソワ」を投入し通販チャネルに参入した。コールセンター、オンラインカウンセリング、チャットなどOne to Oneで化粧・美容情報を提案するとともに、顧客情報をデータベース化し、新たな販路の攻略に取り組んでいる。

一方、持続的事業基盤として戦略的CRS(企業の社会的責任)活動にも注力中だ。大学病院と提携し先天的な皮膚疾患をカバーするメークアップを指導するなど、一人ひとりの美をソリューションし、心まで豊かにする、という資生堂ならではのCSRを展開。植林活動、四川大地震の被災地に小学校の建設、貧困学生への助学金授与、有望なヘア・メーキャップアーティスト、モデルといった人材支援・育成プロジェクト等の活動も推進している。

最後に、「資生堂=Zi Sheng Tangではなく、音によるShiseidoの定着を目指したい」と熱い思いを述べた。

加速する新興国市場攻略と日本企業の成長戦略

永海 靖典|クロスフェイス特別講演 III では、クロスフェイスのマネージングディレクター&COOの永海靖典氏が、新興国市場における日本企業の成長戦略のパターンについて検証した。アジア・新興国における勝ちパターンは従来、先行者型、プロダクトロールアウト型、顧客接点確保型、販売ネットワーク・チャネル買収・提携型が主であったが、すでに限界に近づいていると指摘。インドネシアでの事例を引き合いに「新たにライフスタイル・コミュニケーション志向型、製品・サービス顧客密着型をめざし、早急にオペレーション効率化・スピード化を図ることが重要」であると述べた。それには、「マーケットを見極め、自社の基本要素製品を売ることに固執せず、先を見越した価値を売るという発想の転換が必要」であり、情報対価を支払って顧客リレーション構築体制を整え、R&D機能の現地化を推進するなど、自社の強みである技術・製品と市場を近接させる顧客視点を持つことを提案した。
 特に顧客離れを防ぎつつ、新規顧客を開拓し、売り上げ維持・拡大の持続に向け効果的な営業活動を行うためには、物流・商流に加え「情報流」が重大なカギを握ると強調。「日本企業は欧米企業に比べ、事業からマーケティング・販売、およびフィールドまでのひも付けが弱い。投資対効果を分析・検証するフレームワークの明確化と仕組みへの落とし込みや、末端店頭における自社販売施策の実施度合・他社比較による見える化が不可欠であり、フィールドをタイムリーにモニタリングする『情報流』を欧米並みに組織化する必要がある。これがなければ、戦略だけでは勝てない」と訴えた。